俺がそう思うんだからそうなんだよ、俺ん中ではな装丁ランキング、
『この装丁がすごい!〜漫画装丁大賞〜2013』の発表です。
盛るだけ盛った企画名と共に、ごくごく個人的な趣向と思い入れで
表紙やデザインを紹介したい作品を並べるだけ並べた、
つまりいつも通りの記事になっています。ベスト100+α、どうぞご覧ください。
【100位以降
200/
300】【おまけ(準備中)】
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作品の内容の方が気になった方はそちらをご参照ください。
●画像下に
▲マークが付いている作品は、
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【第1位】 惡の華 7巻 / 押見修造
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「クソムシが」でおなじみの特大フキダシが作品の代名詞になるくらいのインパクトを与えた1巻から3巻までがフキダシ系。黒い背景に特殊加工で作品を象徴する華を忍ばせ、キャラに1色を挿してダークな雰囲気でまとめた4巻から6巻が黒系。そして期待の7巻からは、紙の質感を生かした手触りの良いカバーに水彩画タッチの繊細なイラストが載った、憂いを帯びた美しいデザインが採用された。
これまでの攻撃的なデザインからの大きなシフトチェンジに衝撃を受けたが、これがまた7巻からの新展開にとても相応しく仕上がっている。デザインの周期的な変更があってより印象が深くなったデザインということで今回は7巻を紹介したが、続く8巻、9巻が水彩系とでも言うべき、さらに良い流れを作っていることは付け加えておきたい。
10巻の大きく変わるであろうデザインが楽しみだ、的な言葉で締める予定だったが、もう10巻のデサインは楽しんでしまった後なので、残る関心事は続く11巻、12巻は10巻と合わせてどういうデザインで一致させていくのか。そして後何巻で終わるのか。物語が、そして本がどう閉じられるのか、期待は大きい。
出版:講談社
装丁:hive 久持正士,土橋聖子
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【第2位】 ひきだしにテラリウム / 九井諒子
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未来に宇宙、コメディに日常、メタ。最短2ページから最長11ページのショートショート33篇を収録した作品集。
「ひきだし」という1篇の内容を元に作品集として映える「ひきだしにテラリウム」という名前を本のタイトルにつけ、全てのエピソードをテラリウム(箱庭的な園芸)に詰め込む形で、密度の濃いイラストをカバー全面に広げている。情報量が多すぎてイラスト単体だと重くなりそうなところだが、そこにタイトルなどの必要情報を入れるクリーム色のBOXがスッキリ成分として入ることで、上手くバランスが取られている。さらにBOX自体もよく目立って語感の良い作品名を自然に伝える。このBOXは、背表紙においてデザイン性やタイトルの視認性を高め、また裏表紙でバーコードを浮かせないためにも用いられている。
加えると、帯にはカバーと同じ紙が使われていて、カバーイラストの上に同様のBOXが乗っかり、その上に作品説明とキャッチが載っていて、カバーをまったく邪魔していない。今発売されている物の帯には「このマンガがすごい!2014」ランクインの情報が増えているが、この情報も違和感無く加えられていて、まったくデザインを損ねていないのがさすがと言ったところ。
なお、見返しにはBOXなしの表紙イラストがカラー印刷されており、33篇全てがイラストに盛り込まれていることが確認できる。ちょっとしたウォーリーを探せ状態と言ったところで、イラストのどこがどのエピソードに対応しているかは、以前アップした記事にまとめてあるのでご参考まで。
参考:
【特集】ひきだしにテラリウム カバー/見返しイラストのエピソードMAP
カバー下に仕込まれた宇宙(黒とシルバーの印刷、画像右上)や、カバーデザインと歩調を合わせた奥付デザイン(画像右下)など、本全体が行き届いていて、左ページのノンブルの右に掌編タイトルが載っていることも地味にポイントが高い。
ちなみに、九井諒子作品のデザインは『竜の学校は山の上』がNARTI;S、『竜のかわいい七つの子』がコードデザインスタジオ、そして今回が名和田耕平デザイン事務所と、作品毎に担当が違い、どの作品も比較的に事務所のカラーが大きく出ているため、それが作者のカラーと掛け算させる形で、その作品のデザインも個性が強く出ている。そしてハルタVol.11で、初の長編作品『ダンジョン飯』が始まったが、フェローズ、ハルタに登場するデザイナーの分布と、ここ最近のハルタ傾向を考えると、上記のデザイン事務所以外のところがデザインを担当して、作品の装丁がまた大きく雰囲気を変えてくるのではないかと予想している。楽しみ。
出版:イースト・プレス
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【第3位】 亜人 2巻 / 桜井画門
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「死なない」生物、「亜人」。ある日突然、自分が亜人と分かってしまった少年、少年を捕らえて研究対象にしたい人間たち、そして人間と敵対する亜人たち。それぞれの思惑が入り乱れるホラーアクション作品。
青みがかった暗い背景に、ミイラ男のような何か、亜人が描かれた1巻(正確には表紙の怪物は亜人が出す分身で、スタンド的な能力と言った方が正しいが、ここでは亜人と呼ぶ)。大きなタイトルに、同じ大きさの巻数が並ぶ。この亜人の不気味なフォルムをかっこよく見せる1巻の表紙のインパクトは強く、発売時に確認したジャケ買いの多さも納得できた。
しかし、それよりさらに強烈なインパクトを感じたのが2巻。1巻とは別種の亜人の口が歪に裂けた横顔と手だけを大きく見せて、「人」の文字を喰らうようにタイトルを中央に配置している。シンプルかつ大胆な構図で、キャラもタイトルも目立っている。それなので、どちらが好きかと言えば当然2巻になるが、それもまず1巻で、亜人の基本形を見せている流れがあってこそ2巻のデザインが生きていると思えるので、正確に言うと、1巻から2巻への流れが好きということになる。続く3巻はあえて「見せない」デザイン。解説は省くが、どの巻も見所を作っている。続く4巻以降にも期待が膨らむ。
出版:講談社
装丁:アルティザン 深海和宏
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【第4位】 重版出来! 1巻 / 松田奈緒子
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編集者、営業、宣伝、製版、印刷、デザイナー、取次、書店員…。
新米編集者を主人公に、漫画が描かれ売られていく、その裏側にある人間ドラマを描いた漫画業界作品。
プリンカラーとでも言うべき黄色い背景と茶色いロゴ。そこをはしゃぎまわるように主人公のちびキャラが多数配置される。漢字4文字+「!」のタイトルを全力で伝えるべく配置された極太のロゴには、「出」の字に傾きを持たせたり、各文字の左下に読みを重ねたりと、さりげなく面白みが加えられ、堅苦しさを感じさせない。
ちなみにこの作品は発売後の大きな反響が予想できるものであったので、デザインはどう攻めて来るか期待していたところの、まさかのちびキャラ使いに驚いた。ちびキャラ(本編の人物が普通の等身で描かれる作品における小さなディフォルメキャラ)の扱いは難しく、場合によっては悪目立ちしたり安っぽくもなる要素であるが、この作品ではごく自然に仕上がっている。この自然さが案外難しい。
カバー下(画像右上)にもチビキャラがいっぱいで、ちょっとした間違い探しにもなっている。後書き的なおまけ漫画にはデザインを手がけた関さんも登場(画像右下)。タイトル決定にまつわるエピソードが語られているが、『重版出来!』、このタイトルは改めてすごいと思える。
出版:小学館
装丁:VOLARE 関善之
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【第5位】 エリア51 6巻 / 久正人
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アメリカ51番目の州「エリア51」。妖怪、悪魔、神、UME、空想生物、宇宙人と、「人ならざる者」が隔離された混沌の街で、女探偵が難事件に挑むハードボイルド・ファンタジー。
猛者を敷き詰めた背景と、タイトルごしに銃を手前に向ける主人公。本作のカバーは各巻が奇抜な色分けをして個性を出しているが、大勢のキャラクターを、縦の3分割で青、赤、黄色と大胆に塗り分けた6巻は過去最高にかっこいい。ちなみに、近しいキャラクターを真ん中に置いて、主人公のピンク色と近い赤色をあてがっている。
話は変わるが、お話の中にキョンシーが出てきた関係で巻末の小話にキョンシーが出てきて、作者のデビュー作、『グレイトフルデッド』のイラストが掲載された。(画像右下)。懐かしいな〜と思っていたが、なんと最近シリウスコミックスで復刊したとの情報を手に入れた。これは本屋さんに急ぐしかない(迫真)。
出版:新潮社
装丁:crazy force 竹内亮輔
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【第6位】 Sunny 4巻 / 松本大洋
その体重が0.1トンを余裕で超えるであろう登場人物を載せた4巻。巨漢の太郎君、童心の心を持つ彼の視線の先には天道虫がいる。メインキャラクターの顔を一人ずつ順番にまわしていたので、こうなることは必然だったわけであるが、この構図でギャグにならなず美しさすら感じさせる、そのイラストの繊細さに感嘆すら覚える。(比較対象としてはずるいが、例えば漫F画太郎
『罪と罰』4巻)
出版:小学館
装丁:セキネシンイチ制作室
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【第7位】 宝石の国 1巻 / 市川春子
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宝石のカラダを持つ28人と、彼らを装飾品にしようと襲い掛かる月人。戦う宝石たちの物語。
前2作品と同じく本作品についても作者本人が装丁を手がけていて、3作でタイトルや作者名の位置やおおまかなデザインを揃えている。また、前2作では部分的な光沢加工によって、光の加減で模様が浮かび上がる仕掛けが特徴的だったが、今回の特徴はホログラム。本作のカバーには、光の加減で煌き方が変わるホログラムが全体的に印刷されているが、その一つ一つが宝石表面のような多角形状になっており、イラストに上品な煌きを与えている。
カバー下は銀色+キャラの裸体(画像右上)。表紙をめくると、導入の大きなひとコマという形でカラーイラストが目に飛び込んでくるところも面白い。
出版:講談社
装丁:市川春子
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【第8位】 ぼくらのゆくえは / 渡辺カナ
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少女漫画の短編集。とは言っても表題作『ぼくらのゆくえは』が単行本の半分を占めているため、表題作全面押しの表紙になっている。
漫画家と女優志望の女子大生。伸長差のある二人を華々しく飾る、色とりどりの素材。部屋着で原稿を持った男性とともに、作品の題材を匂わせるべく、背景には作品の下絵が薄い水色で配置されている。さらに、女性の喜怒哀楽が視覚化されたような模様が並び、女性のポーズと共にそこが舞台の上であるかのように綺麗な紙ふぶきが舞っている。
ポップで可愛いデザインが好きなため、この記事でチョイスする作品も「ポップで可愛い」と言えば通用してしまう作品が多く、その形容詞を使いすぎないようにいつもセーブしている、という旨の話は去年もしているような気がするが、このコラージュデザインは「ポップで可愛い」そのもの。これは可愛い。
出版:集英社
装丁:川谷デザイン
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【第9位】 秋津 1巻 / 室井大資
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「悪夢のような父親とその息子」と、とても内容のわかりやすくなったカバーリニューアル。同じ内容で2冊も買わせるのかコノヤローと言いたいが、今回のカバーもなかなかいい感じでくやしい、と愛憎交じり合った気持ちで昨年と同じ順位に置いてみた。
リニューアルして売れる見込みがあるのなら、やってみる価値はある。みんな買ってね。
それにしたって、1、2巻しか出ていない作品がどういう事情があるにせよたいした時間がたっていないまま装いを変えて刊行されて、旧版も新版も好みである結果2回紹介するはめになるなんて事態は本当にカンベンして欲しいものである。とは言ってもそんなケース自体がとてもレアなので、次の機会でそんな心配をする必要はまったくないのだけれども…(フラグ)
出版:エンターブレイン
装丁:Pri graphics 川名潤
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【第10位】 思春期ビターチェンジ 1巻 / 将良
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思春期の少年少女、人格入れ替わり作品。表紙には焦りの表情を浮かべながら互いを指差す二人、そしてフキダシ。鮮やかなオレンジ色の背景に載せられたフキダシが目に飛び込んできて、そこで判明する「中身が入れ替わって3年目」という事実は、キャラの様子や、ループする矢印を組み込んだタイトルと合わさって、作品のポイントを分かりやすく教えてくれる。このフキダシはバランス良くデザインに組み込まれており、イラストやタイトルのポップさが際立ったカバーは目にも楽しい。設定を台詞で伝えてしまうという、カッコよくやったもん勝ちの装丁。
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と、雑誌で紹介した本作品。コミックのデザインが急速に多様性を増して日々面白くなっている現在、入れ替わりジャンルにおいても、巻数表記にループする矢印を入る、二人の人物の矢印を交差させるなど、伝えにくい内容をデザインでスマートに伝えるべくアイディアを盛り込んだ表紙が生み出されている。その流れの中で、分かりやすさとデザイン性を兼ね備えた面白い表紙が出てきたことが嬉しくて、コラムで推したことを覚えている。
出版:BALCOLONY.
装丁:ほるぷ出版
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【第11位】 極楽長屋 / 岡田屋鉄蔵
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訳ありな人達が集う曰くつきの長屋を舞台にした群像時代劇。
草双紙をモチーフにした時代物の風情を感じさせる一枚絵。一枚絵を取り囲み、破れや風化をデザインに落とし込んだぎざぎざの枠。それだけでも十分雰囲気の出ている表紙をさらに個性的に仕上げているのが沢山の文字情報。タイトル、作者名に加えて、「聞いて極楽、見て地獄。」から始まる前口上が載せられているが、ここら辺はまだまだ普通。「共同印刷株式会社」と印刷所の名前、「千代田区五番町…」と版元の住所、さらには「日本製」、つまりメイドインジャパンと、わざわざ載せる必要がない情報までが、装飾アイテムとして活用されている。レーベル名までもが「繪(絵)傳(伝)と旧字体の当て字で表記されるなど、尋常ではない拘りを見せる一方で、タイトルや作者名の英語表記も混ぜてデザインを行う、このへんのバランス感覚は非常に興味深い。
画像右上がカバー下で、右下が中表紙。他には、たった2話しかないのにかっこいい目次が見所。ちなみに袖にあるデザインのクレジットまで漢字表記になっていて、コードデザインスタジオを漢字で表すと「和音傳(伝)達工房」となるらしい。
参考:
岡田屋鉄蔵『極楽長屋』の、江戸時代を表現する技巧について (マンガLOG収蔵庫・別館)
出版:マッグガーデン
装丁:コードデザインスタジオ
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【第12位】 新装版 真・女神転生 デビルチルドレン 全3巻
/ 藤異秀明, ATLUS
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小学生が悪魔を召喚して戦うゲーム作品のコミカライズ、その新装版。
カバーはまぶしい金色で包まれ、そこに鬼の形相で銃を構える主人公がほぼ黒一色の線画で描かれている。さらに、タイトルなど一部の白と血しぶきのように散らばる青色とで完全な4色に仕上がったカバーは、スタイリッシュであり、同時に殺伐としたまとまりが、過激で凄惨な作品の特性を上手く表現している。新装版でよりふさわしい佇まいを手に入れたと言えるが、元の掲載紙はコミックボンボン。こんな装丁の似合う作品が児童誌に掲載されていたのか、そこを突っ込まずにはいられない。*
出版:講談社
装丁:arcoinc 楠目智宏,池田悠
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【第13位】 どぶがわ / 池辺葵
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高級住宅街の谷底に横たわる臭気漂う川、その川沿いのベンチで優雅なひと時を過ごす老婆と、住宅周辺の人々の群像劇。
大きなスカートを気にせず川べりに座り込み、他愛も無い話に花を咲かせる貴婦人達。女性たちの服にはそれぞれ、薄っすらと違う柄の模様があてがわれている。カバーには裏側の絵が薄っすら映り込むくらい薄く、風合いの良い紙が使われ、質感も色合いも良くてとても気品が溢れている。しかし、作品のタイトルは「どぶがわ」。そのどう考えても悪いイメージしかないタイトルと綺麗なカバー、そのギャップが見る人の興味を引き付ける。
汚いタイトルと気品溢れる装丁、どちらが本当か。どちらも本当であることは、読めばわかる。
出版:秋田書店
装丁:Pri graphics 川名潤
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【第14位】 ほしにねがいを / 中川貴賀
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悩みを抱えた双子の兄妹と、人の姿を成した、願いを一つ叶えてくれる星達。ちょっと不思議な夏の出会いを描いたハートフル作品。
全面の星空にまるくなった少女、これだけでもとても美しい構図。そこに黒い地平と人物の小さなシルエットが加わることで、有限のカバーの中で夜空はより広大に拡がっていく。タイトルは白色。濁点部分は緒を引く流れ星の形になっている。緩やかに曲線を描く程度に不揃いの文字の並びが瞬く星々のようでイラストによく馴染み、そして程よく目立っている。総じてロマンチックという言葉が似合う装丁。*
出版:講談社
装丁:5gas 宮村和生
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【第15位】 足摺り水族館 / panpanya
日常の隙間にうごめく歪な心象風景に誘うような、奇妙でとりとめなく、どこか懐かしい短編集。「過ぎ去っていった消費社会の残像と、緻密かつデタラメに浮かび上がるハイコントラストな風景が生み出す既視感。」という紹介文がなんのこちゃであるが、そういう作品。
意味不明の置物や奇妙な看板が放置された、描き込みの細かい路地裏の風景と、路地裏に佇む簡素なタッチの人物。ゆるい枠線で囲まれた、ひょうきんなタイトルロゴとシンプルな作者名。元の紙がくすんでいるようで、表紙にもどんよりとしたした異空間のような雰囲気が出ている。いわゆるイラストの載った通常のカバーはなく、本体がヨコシマの入ったビニールカバーで保護されていて、これが不思議な空間を閉じこめた水槽のようにマッチしている。
わら半紙のような紙が使用された本編、荒いカラー写真の載った一昔前の広報誌のようなコラムページ(画像右上)、ぼんやりとした水族館の写真(画像右下)など、本全体が奇妙なコンセプトでまとめられており、不思議な感覚と共にノスタルジーを心地よく刺激してくれる。
なお、帯はビニールカバーと本体の間に入っていて、帯を外すためにカバーを外すと本体が曲がりそうだったので、これはそういうものとして帯をそのまま載せている。
出版:1月と7月
装丁:panpanya
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【第16位】 ミタライ 探偵御手洗潔の事件記録 2巻
/ 原点火, 島田荘司
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島田荘司原作・御手洗潔シリーズを人気傑作短編から続々漫画化しているコミカライズ作品。
恐ろしく端正な顔立ちをした御手洗潔が手錠を嵌められ、鍵を摘んだ白黒のイラスト。タイトルは黒い円の上で、金色のホログラム加工によって煌びやかに輝く。これらにドアや帽子、錠前などのアイテム、背景の赤、黄緑色が合わさることで、スタイリッシュに上質のミステリーらしい雰囲気を形成している。裏表紙も、あらすじを入れるタイプとして面白くデザインされていて、カバー全体としてかなりかっこいい。
1巻のデザインも同様に面白く仕上がっていたが、少し『ケイゾク』っぽいというかサイコな雰囲気を出していたのに対し、2巻は作者のイラストの美麗さが素直に出ていてより良くなったのでこちらを選択した。
出版:講談社
装丁:L.S.D. シマダヒデアキ
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【第17位】 君は淫らな僕の女王 / 横槍メンゴ,岡本倫
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幼馴染のお嬢様を追って同じ高校に入った青年が、ある「おまじない」で
自制心を失うようになった彼女に振り回されつつ、その距離を縮めていく変態エロコメディ。
ヒロインの顔を大きく描きつつ、手を少し添えるだけで頬杖を付く物憂げなヒロインの可愛さを演出したイラスト。背景と呼べるのは左上のほんのちょびっとの赤いエリアぐらいだいだが、この赤色とヘアバンドの赤色が良い差し色になっている。タイトルと作者名は、イラストを邪魔しないように髪の上にちょとんと載っているが、タイトルの文字の開け方や原作と作画の文字を分けるように装飾する「X」のマーク、文字の傾きなど絶妙のレイアウトで存在感を出し、しっかりとオシャレさに寄与している。
倫先生のトチ狂った変態ネーム(褒め言葉)がメンゴ先生の作画で美しく形を成し、そこにhiveのデザインワークが加わって人々の目にとまり広まっていく。息の合った連携プレーを見せ付けてくれた。
出版:集英社
装丁:hive 久持正士
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【第18位】 王様達のヴァイキング 1・2巻 / さだやす, 深見真
ハッカー少年が投資家に見出されて新しい仕事を作り上げていく、新時代のスリリングビジネス作品。
少年と投資家の鋭い眼光がこちらに向けられた、W主人公的な二人のイラスト。二人の間には破けのような黄色いエリアが入り、黒いタイトルロゴがくっきりと浮かび上がる。暗めの青色と明るい黄色のコントラストが効いていてかっこよく、かつシリアスな重みを持っている。この1巻の破れによる真ん中分けの構図が続いていくのかと予想していたが見事に外れ、2巻は破れが右上から緩やかな角度で左下に流れた。一人は破れで出来たスペースに窮屈そうに配置され、もう一人は破れの奥に配置して、タイトル込みで面白く奥行きのある空間を構成している。
どちらの巻においても黄色いタイトルエリアは、視認性、個性ともにバッチリで、一目でこの作品がこの作品であることを主張している。このタイトルの存在感は貴重で、どう破っても様になりそうでもあり、今後のアレンジにも期待が膨らむ。
出版:小学館
装丁:GENI A LOIDE 小林満
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【第19位】 8月のソーダ水 / コマツシンヤ
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海辺の街の日常と不思議でへんてこな出来事を描いた表題作他、新聞掲載のユーモアマンガが収録されたフルカラーマンガ作品集。本はハードカバーになっている。
空にソーダの気泡が浮かび魚が泳ぐ、メルヘンでどこか懐かしい海辺のイラスト。表紙をめくると、フルカラーなので表紙のイメージがそのまま物語へと続いていていく(画像右下)。
青色が綺麗なのはもちろんのこと、青色とのコントラストで白色の綺麗さも際立っている。表紙の白枠部分から続く厚みを持った折り返し部分と、小口の白にはハードカバーならではの綺麗さがあり、また中の紙質が良いため、小さなイラストが載ったページ(画像右上)や、文字だけの奥付にしてもやはり白が美しい。作品全体が清涼感に包まれていた、とても心地のよい本に仕上がっている。
出版:太田出版
装丁:Pri graphics 川名潤
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【第20位】 補助隊モズクス 1巻 / 高田築
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現代社会に潜む人間寄生型の怪物「倫虫」に、式神を使役する人間が挑むアクション作品。
金属バットを持ったサラリーマンと、彼にまとわり付く3匹の式神。その後ろには体だけ人間の形をしたような怪物が敷き詰められており、これらの怪物は、一体一体が相当不気味に描かれている。それだけだとホラー作品にでも見えてしまうような怪物たちであるが、そこに背面の鮮やかなピンク色とかっこいいロゴが加わることで、ビジュアルのインパクトを残しつつ、その怖さはある程度軽減される。結果、適度にスリリングな雰囲気を持ったカッコいい表紙が出来上がっている。
また、1巻は中表紙と目次(画像右下)の2色のカラー印刷もカッコいい。(2巻では普通の白黒印刷になってしまい、これは少し残念だった。)
出版:エンターブレイン
装丁:芦田デザイン事務所 芦田慎太郎
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【第21位】 彼女とカメラと彼女の季節 3巻 / 月子
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1+1=キマシタワー!!
出版:講談社
装丁:NARTI;S 新上ヒロシ
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【第22位】 ラブロマ 新装版 5巻 / とよ田みのる
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アフタヌーンに掲載されていた少年少女の純愛ラブコメ作品、そのゲッサンレーベルからの新装版、その最終巻。
道を歩く沢山のキャラが水平に並ぶよう、土手道を横から見た構図。広い青空には、虹が二重にかかっている。主要メンバーが一列に並んで歩く全員集合的なイラストが、白枠に囲まれて記念写真のようにまとまっている。
1巻が夜景、2巻が夕日、3巻が日の出、4巻が見下ろし視点と来て、5巻がこの青空。旧版では2巻と3巻が青空で使われてることからも分かるように、背景の王道と言える青空をラスト1冊にだけ持ってくる構成は新装版ならでは(全5巻の『友達100人できるかな』においても、青空は2巻と、早々に使われている)。語られるのはここまで、そして楽しい毎日はこれからも続いていく、そんなメッセージを勝手に受け取りつつ、爽やかに読み終えることができた。
出版:小学館
装丁:ベイブリッジ・スタジオ 白山仁
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【第23位】 失踪日記2 アル中病棟 / 吾妻ひでお
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作者がアルコール依存症で入院した日々を赤裸々に綴った、失踪日記の続編作品。
病棟の断面図とさまざまな人間模様を1枚に収めたイラストが2色のピンクで塗りわけされて全面ピンクのカバーに仕上がっている。描き込まれたキャラは等身が低くて、ピンク色でことさら可愛く見えるが、それでも「アル中」と「病棟」という文字のインパクトは大きく、そのピンク色はどこか闇と毒を帯びている。
発売当初、本屋さんで2段ぐらい使って面で陳列されていた風景が、結構印象に残っていて、目立つ色合いの本は集まったときもさらに目立つ、そういう強さもあるのかもしれないと、ふと思ったりした。
カバー裏には、「セルフケア自己評価表」が印刷されている(マウスオンで表示)
出版:イースト・プレス
装丁:鈴木成一デザイン室
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【第24位】 ニコ・ニコルソンのオトナ☆漫画 / ニコ・ニコルソン
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1作品につき2ページ。計52作品の漫画をオススメする、漫画紹介漫画。
寝転がってくつろいだ主人公(作者)イラスト。そして作中のコマが乱雑に重ねられた背景。主人公イラストに対して背景の色が薄いため、情報量の多い沢山のコマが、背景として一歩引きつつ、背景に注目して眺めてみたときに、作者のモノマネ芸の広さと紹介時のノリの良さが伝わる程度の大きさで配置されていて、漫画紹介漫画として面白そうな雰囲気を上手く形成している。決め手はラベルのようなタイトルロゴのデザインで、これが載せられることで、線の緩いイラストが、メニュー表の表紙のように引き締しまり、完成している。
中表紙や目次はもっと直接的に、高級なレストランのメニュー表のように品よくデザインされている(画像右)。
そこにずらっと名作漫画のタイトルが並ぶ必然的な構成の美も、ちょっとした見所かもしれない。
出版:エムオン・エンタテインメント
装丁:Maniackers Design 佐藤正幸
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【第25位】 エルハンブルグの天使 / あき
天使の祝福を受ける王と、天使が見える剣士。固い絆で結ばれていた二人のすれ違う運命を描いた、1冊完結作品。
表紙には、甲冑を着た剣士の線画が載せられ、その部分的な箇所が赤く着色されている。扉絵(画像右下)のような彩色を行っても、作者の既刊作品のように美しく仕上がるのは想像に難くないが、今回の線画を用いたデザインは、恐ろしく緻密に描かれた装飾を際立たせ、既刊作品のデザインとはまた違った個性を引き出している。文字部分は、背表紙にあるものも含めて金の箔押しで印刷されていて、白、黒、赤で統一された表紙の上で、効果的に上品さを底上げしている。しかし、悲しいかな画像では箔押しの美しさが出ていないので、そこは実際に手にとって確認してもらいたいところである。
出版:祥伝社
装丁:ベイブリッジスタジオ 黒木香
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【第26位】 ふくしまノート 1巻 / 井上きみどり
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福島の「今」について母親や子どもの視点で綴るエッセイマンガ。
優しい色合いの黄緑を背景色にして、手を繋ぐ子供達を並べている表紙。子供達は、袖から袖へと続いて大きな輪を形成している。また、タイトルの英語表記が表紙から裏表紙に続いており、カバーを広げて見るように誘導している。子供の輪において、背表紙に著者を入れているのがデザイン的にも、著者の語り部という役割的にもでずっぱらず、かつ目立てる位置に立っていて上手いた。
目次(画像右上)や奥付(画像右下)などとても丁寧な仕事がなされていて、デリケートな題材を扱う作品としての誠意のようなものが現れているように感じた。
出版:竹書房
装丁:ISO DESIGN WORKS 磯崎真也
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【第27位】 サイレーン 1巻 / 山崎紗也夏
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機動捜査隊の中で秘密の交際を続ける男女と、二人をかぎまわる謎の美女、三人の物語。
表紙には事件で封鎖された街の一角が白黒で描かれており、地面にタイトルと作者名、ビルの看板に作者名、電柱にレーベル名など、文字情報はすべて背景と一体化している。これら文字に加え、主要キャラなど重要部分だけがピンポイントで着色されることで、目立たせたい部分が小さくてもよく目立って、そのストーリーまで予感させる。
「ちなみに単行本カバーはデザイナーさんから挑戦状みたいなアイディアが 送られてきたので受けてたちました」(あとがき漫画より)
久遠さん、山崎先生、GJ!
出版:講談社
装丁:G×complex 久遠敦司
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【第28位】 購買のプロキオン / ふかさくえみ
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百合短編集。
等間隔の黒線によって、エリアが二等辺三角形で区切られた表紙。黒線を境界にして各エピソードキャラと、文字を入れるためのエリアが敷き詰められて、異なるピースを混ぜ合わせたパズルとでも言うべき面白い視覚効果が生まれている。
また、裏表紙も同じデザインになっており、表と裏のデザインの統一によって、裏が表と同等に楽しめるのであるが、この両A面的な感覚が、中々に面白い。こちらには、エピソード紹介のピースがオシャレに埋め込まれており、バーコートエリアもデザインに組み込まれるように綺麗に収まっている。
ちなみに表題作のストーリーは、昼の購買でしか会えないため、夜の空でしか見えないこいぬ座の星「プロキオン」と呼ばれる少女の謎を探るというもの。なので、「購買」の「プロキオン」。(ひきだしにテラリウム、思春期ビターチェンジ、購買のプロキオン。ここらへんの語感に弱い)
出版:新書館
装丁:arcoinc 楠目智宏,池田悠
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【第29位】 奴隷区 僕と23人の奴隷 1・2巻
/ オオイシヒロト,岡田 伸一
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どんな勝負でも勝ちさえすれば相手を奴隷にできる器具「SCM(エスシーエム)」。「SCM」を手にした24人の欲望群像劇。
右側は普通の格好、そして左側には拘束具で束縛された姿と、同じ人物を左右に配置した構図。目隠しや、開くことを強要された口など、格好の異様さが普段の姿と比べられ、強調されている。1つの文字に二つのフォントが混じったようなタイトルロゴのデザインに、タイトルを挟み込む作画、原作者のクレジット配置など、文字もさり気なく面白いバランスの取り方がされている。
この同一人物横並びの背徳的でダークなデザインは、4巻まで継続中。統一性が高く、
各巻での個性も出しやすい、メリットの多いデザインフォーマットと言っていいかもしれない。
出版:双葉社
装丁:L.S.D. シマダヒデアキ
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【第30位】 さよーならみなさん / 西村ツチカ
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ごくごく普通の女子高生が次から次へとかまって属性持ちのやっかいな男達に絡まれる、メルヘンなストーリー漫画。
男の背中、熊のぬいぐるみ、電車、鳩、森、団地。作中に登場したものが無造作に集まってアイテムごとに塗り分けられた、既視感を感じさせる奇妙な空間。地面がいくつも見えるのに、そこを落ちる女子高生はいったいどこにいるのかも落下点も掴めないため、どこかにいるのにどこにもいない、そんな不思議な浮遊感が生まれている。表紙と背表紙にある、下手さが味になったタイトルと作者名は、デザイナーの井上さんの奥さんが夜なべして作った刺繍でできている。
裏表紙では、雲のような空間がバーコードエリアになって、この空間が袖では作者の来歴紹介エリアとして使われている。こういうイラストと必要な記載情報の違和感の無いすり合わせも注意してみると面白い。
本編のインクは黄色味がかった茶色らしき色(画像右)。何色と言うのが適切かわからないけれども、黒を使った場合よりも心なしか温かみが感じられ、本編が色と共に印象に残る。装丁が面白さに左右すると言ってもあながち言い過ぎではないかもしれない。
出版:小学館
装丁:井上則人デザイン事務所 井上則人,安藤公美
ロゴ刺繍:木村尚恵
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【第31位】 累 1巻 / 松浦だるま
その口紅が、口付けが、相手の容姿を奪う。
美醜をテーマに描かれるホラーサスペンス。
する側とされる側、女性二人の口付けにフォーカスした表紙イラスト。読み仮名が妙な形で入り、絶妙な違和感を感じさせる漢字一文字のタイトルが、紅い唇の脇、人物のアゴに重なるように配置されている。ともすると絵の邪魔をするかのようなその配置は、イラストの官能的な美しさを崩さずに、漠然とした不安を与え、「醜」の部分を暗示させる。違和感の潜んだ美しい装丁は、1巻でこのインパクト。次巻はどうデザインされるのか、期待が膨らむ。
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出版:講談社
装丁:hive 久持正士
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【第32位】 PiNKS / 倉金篤史
エッチな本を探す小学生の小さな冒険譚。
夕日と小屋をバックに、エッチな本を持ち合う少年少女。イラストと、左右の白いスペースと共に対称性が高く整ったカバーデザイン。左上には主人公のモノローグが載せられており、背表紙に掛かった文字もこれと同じ。ちゃんと読もうとすると思わず手にとってしまう。
出版:徳間書店
装丁:VOLARE 関善之
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【第33位】 終電にはかえします / 雨隠ギド
百合作品集。
タイプの違う二人のイラスト。黒い背景に散りばめられた桃色の煌きが、二人のトキメキを映すかのようにムードを作っている。大きな文字で配置するのも分かる、耳障りのいい表題作は、2話構成の作品の2話目にあたり、そのタイトルの意味がわかる過程が洒落ているので、読み終わるとさらにカバーの印象が良くなる。
出版:新書館
装丁:arcoinc 楠目智宏,池田悠
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【第34位】 暗殺教室 5巻 / 松井優征
無表情と言う名の白。
既刊の中でも頭一つ抜き出てシンプルに見える。
「暗殺教室の表紙は手抜きで腹が立つ」
という旨の意見を見かけたとき、
このデザインがかなり攻めたものであることを
改めて思い出した。
出版:集英社
装丁:hive 久持正士,土橋聖子
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【第35位】 血まみれスケバンチェーンソー
6巻 / 三家本礼
返り血を浴びるヒロインの鬼のような横顔、
根元しか写らないチェーンソー、痛みだけを伝えるゾンビの手。
集中線の入った銀色の背景が加わって、このすさまじい寄りの構図に
チェーンソーの鼓動とゾンビの断末魔が
聞こえそうなくらいの迫力が生まれている。
出版:エンターブレイン
装丁:セキネシンイチ制作室
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【第36位】 はじまりのはる 1巻 / 端野 洋子
農業を題材に、震災に翻弄される少年達のその時を描いた作品。
牧場に座り込んだ少年と、少年に顔を寄せる牛。
大きく人と牛の顔にフォーカスした構図。
奥行きを感じさせる背景が加わることで、一人と一匹の距離が
より近く感じられる。視覚にもうひとつ面白みを加えている、
大胆な大文字タイトルの配置もポイント。
文字が、優しい。
出版:講談社
装丁:note 芥陽子
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【第37位】 鉄楽レトラ 4巻 / 佐原ミズ
踊りを意識した構図を採用していた1〜3巻。
4巻はギターを弾いた少年がイラストになり、趣が変わった。
空の色が溶け出したかの ような青色がとても優しい。
出版:小学館
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【第38位】 昭和元禄落語心中 4 / 雲田はるこ
和傘を傘を差した見返り美人。
背景はくすんだオレンジ色で傘は薄茶色、着物は薄い紫色。
地味な色あわせなのにとても艶やか。
こういうのを確か、クールジャパンと言った気がする。
唐草のような模様の仕込まれたカバー下も必見。
出版:講談社
装丁:zelas ishinuma isam
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【第39位】 おかゆねこ 1巻 / 吉田戦車
飼い主のため、猫が日々新作おかゆを開発するまかないコメディ。
作ってみたおかゆとネコを綺麗に並べて、主に2色の黄色と黄緑色で塗り分けた表紙。美味しそうに見せるのは二の次で、明るくて奇抜な配色で可愛い方向に特化させたデザイン。「美食」マンガではないので、逆に美味そうでないのがいいのかもしれない。
出版:小学館
装丁:cozfish 祖父江慎, 福島よし恵
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【第40位】 わびれものゴージャス / 小坂俊史
「さびれ」+「わび」スポットを廻るレポート漫画『わびれもの』の続編。前回は『るるぶ』、そして今回は『ことりっぷ』を意識したデザインになっている。
背景色は紫で、散りばめられたイラストの主線はオレンジ色。元ネタの『ことりっぷ』を知らなかったこともあって、第一印象は、カバーの発色がとても良くて棚ざしの状態でも良く目立ち、「ゴージャス」を名乗るのに相応しい、だった。
出版:竹書房
装丁:VOLARE 関善之,青山功
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【第41位】 愛蔵版 銀曜日のおとぎばなし
1巻 / 萩岩睦美
イギリスを舞台に小人のお姫様が活躍するファンタジー作品。
連載終了から30年後の愛蔵版。
植物柄の仕込まれた銀のストライプ背景。ツタのリースが、
ストライプの背景と、舞台的なイラストに継ぎ目になりつつ、
手紙やポストより小さい女の子をフォーカスさせる。
出版:平凡社
装丁:名久井直子
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【第42位】 王様とわたし / リカチ
少女マンガ短編集。
表題作をモチーフに、お菓子作りをする少女と共に
お菓子が散りばめられたカバー。
縦横だけで形成されたデジタルな質感のフォント。
白い背景の上で、少女とマカロンがくっきりと目立ち、
横向きに配置された大きな瞳の少女と眼が合うこともあって印象に残った。
出版:講談社
装丁:川谷デザイン
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【第43位】
ひとりぼっちの地球侵略
2・3巻 / 小川麻衣子
ストーリーの流れを汲み、倒壊した観覧車を背にスケールの大きい2巻。ストーリーから離れて、自転車で異国の街をかけるノスタルジックな3巻。大きな緩急が双方の印象を深めている。
出版:小学館
装丁:ベイブリッジスタジオ 黒木香
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【第44位】 聖☆おにいさん
8・9巻 / 中村光
『荒川アンダーザブリッジ』が、表紙詐欺的な奔放さで遊んでいるのに対し、こちらも巻数が揃ってきて、まさしく「巻数」で遊ぶという特徴が明確化してきた。
8巻は特に、アイディアの起点がどこにあって、イラストとデザイン、どちらが擦り寄ってこの形に収まったのかが気になるところである。
出版:講談社
装丁:NARTI;S 新上ヒロシ
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【第45位】 残光ノイズ / コダマナオコ
4年間で描かれた6篇が収録された百合短編集。
イヤホンをシェアする少女二人。
白と黒、イエローとグリーンでまとめたカバー。
背景を透過させる服。服の色と同じ色のノイズ。
人物と背景とノイズと文字が溶け合い、
不思議な一体感を生んでいる。
出版:一迅社
装丁:川谷デザイン
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【第46位】 つばめと海とドルチェ / 菅田うり
ニコニコ動画や"歌い手"の要素が入ったネット時代の音楽青春作品。
人物の緑の髪色と、ピンク色の小物が多く集まったアイテムエリア。集合的に見た色のバランスに美しさを感じる表紙。タイトル・作者名・レーベルと文字が同じ角度で緩く傾き、見えない"少女の歌声"と重なる。新書版の少女漫画ながら、背表紙や中表紙など色々とコードデザインスタジオらしさが爆発していている。
出版:講談社
装丁:コードデザインスタジオ
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【第47位】 空想郵便局 3 / 朝陽昇
『奇跡』を届ける配達人を描いた作品。
手紙の海に写る、空駆ける鳩の影。
人のいないイラストの真ん中に堂々とタイトルが載せられている。
人がいるカバーを1巻、2巻と続けたからこそ生きる、
最終巻のデザイン。
出版:マッグガーデン
装丁:arcoinc 楠目智宏, 池田悠
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【第48位】 神様がうそをつく。 / 尾崎 かおり
小学校最後の夏、ひそかな恋の物語。
高架下、昼顔、Tシャツの少年と手を繋ぐ浴衣の少女。本編の印象的なシーンをモチーフにした夕暮れ時の1カットが、切なさを含んだひと夏の物語を予感させる。電車の窓が人物の視線の先にある夕暮れの空を映す、さりげない構図が素敵。文字はとても小さくて配置されてイラストを最大限に尊重しつつ、視認性も良く、しっかりとそのタイトルを目に刻み付ける。
出版:講談社
装丁:GENI A LOIDE 小林満
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【第49位】 小さなキミと大きなボク / オザキミカ
超でこぼこ夫婦のまったりした日常4コマ。
伸長差を強調した、斜めに向き合う夫婦。
シンプルな構図とシンプルな色分け。
寂しくならない程度にシンプルなボックス形のタイトル。
軽やかですっきりと整っていて、
シンプルながら手抜きに見えない仕上がりがお見事。
出版:イースト・プレス
装丁:井上則人デザイン事務所 坂根舞
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【第50位】 特例措置団体ステラ女学院
高等科C3部 1巻 / みどりとももか, いこま
女子高生×サバイバルゲーム漫画。
キャラを横向きに配置して、空いたスペースに文字や沢山の弾丸を敷き詰めた表紙。文字の大部分やキャライラストの主線はシルバー。白いカバーの上で、くっきり塗り分けられたカラフルな迷彩と弾丸と、シルバー部分が浮き出て、ポップな個性を出している。
出版:講談社
装丁:BALCOLONY.
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【第51位】
ツヅキくんと
犬部のこと 上下巻
/ 衿沢世衣子,片野ゆか
大学獣医学部のサークル「犬部」の青春を描いたノンフィクション作品のコミカライズ。黒く縁取りされたイラストエリアと白枠、枠外に配置されたタイトル。見やすく分かりやすく落ち着いたデザイン。とても誠実。
出版:秋田書店
装丁:Pri graphics 川名潤
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【第52位】 敗走記 1 関ヶ原〜大阪
「島津の退き口」を辿る / しまたけひと
作者が島津義弘の敗走経路を辿り、
合戦のエピソードを絡めて追体験をレポートするエッセイ作品。
歴史の再現部分を切り出してコマに嵌めたマンガデザイン。
タイトルもコマの中。一人枠をはみ出た作者。
枠外を赤にしたカラーなコマの彩色が見た目に鮮やか。
構成で作品の雰囲気が伝わりやすい。
出版:講談社
装丁:ARTEN 能瀬公輔
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【第53位】 へんなねえさん / 吉富昭仁
エロとSFの連作短編集。
80年代の宇宙人っぽい変な人達が変なポーズをとっている表紙。
背景は銀色で主線や髪の部分はピンク、そして黄色と黄緑色と肌色。
なまじ力が入っているため変なのスタイリッシュで
スタイリッシュなのに変。
正しい電波装丁。
出版:大田出版
装丁:hive 久持正士
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【第54位】 ゆずべんとう
1・2巻 / 葵梅太郎
ハートフルヘッドバッド弁当漫画。テーブルの上のような箱庭感のある表紙エリアにキャラや食べ物、料理アイテムが散りばめられたポップな表紙。全2巻で、デザインを揃えて1巻はピンク、2巻は水色と可愛らしく対を成している。
出版:スクウェア・エニックス
装丁:虻川貴子
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【第55位】 トウキョウ・D 1巻 / 祀木円
都内に潜伏する戦闘用兵器ロボット“ドール”の回収任務を背負う人とロボットの物語。
グレーの背景にスーツを着た男の足。文字はなくとも「KEEP OUT」を連想させる黄色いライン。シリアスな雰囲気が形成された表紙のなかにもふっと可愛い何か(ロボット)がいる、ギャップが面白いデザイン。ロボットの小ささを、足しか見えない人物配置で明確化させる構図が洒落ている。
出版:講談社
装丁:arcoinc 楠目智宏, 池田悠
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【第56位】 All those moments
will be lost in time / 西島大介
SFマガジン掲載の、SFエッセイコミック。
イラスト部分のモノクロと、文字をおくための水色のラインで
系3色のシンプルな色使いの表紙。
行にわけてかなり細かく漫画のコマが貼られた背景が、
集合として回想や過去を表しているようで、
漫画のコマを使ったデザインもまだまだ色々できると思った。
出版:早川書房
装丁:TATSDESIGN 有馬トモユキ
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【第57位】 就職難!! ゾンビ取りガール
1巻 / 福満しげゆき
零細ゾンビ回収業者の日常を描いたゾンビ作品。
背景が水色の水玉、キャラが黄色とピンクで配色された、おおよそゾンビ作品らしくないポップな表紙。ではポップに徹しているかと言えばそうでもなく、1体ゾンビがリアルに配色されていてそこだけ不気味。この捕らえどころのなさはゾンビ作品の一言で片付けられない内容にも言えることで、つくづく変な作品だよな〜と2巻を待つ。
出版:講談社
装丁:L.S.D. シマダヒデアキ
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【第58位】 リアル 13巻 / 井上武彦
凶悪な面をした悪役プロレスラーのアップと、
ムラサキのタイトルロゴ。
読了補正上等。
読んでしまったら、この表紙が
輝いて見えないわけが無い。
(物理的に光るという話はしていない)
出版:集英社
装丁:GENI A LOIDE 小林満
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【第59位】 ぷらせぼくらぶ / 奥田亜紀
多感な中学生達を独特のタッチで描き出した連作短編集。
メインキャラの二人を配置した教室の風景。
暗いピンクと暗い水色とタイトルの黄色。
赤青メガネで見たら飛び出しそうな不思議な色合いは、
思春期の期待と不安に揺れる心模様を表しているようにも思えた。
実際、赤青メガネで見たらちょっと飛び出た。
出版:小学館
装丁:セキネシンイチ制作室
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【第60位】 エイス 1巻 / 伊図透
黒くハッキリしたタイトル、
六角形と穴の開いた円の幾何学模様、
そしてオッサンの3層構造の表紙。
面白い視覚効果を与えているこの六角形が何かと言うと、説明がし辛い。
そもそもストーリーが簡潔に説明しづらい。
とりあえず、名和田さんじゃないよ、セキネさんだよ、
巻数表記に注目だよ、ということだけ言って空白を埋めておく。
出版:講談社
装丁:セキネシンイチ制作室
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【第61位】 アヤメくんののんびり肉食日誌
1巻 / 町麻衣
恐竜オタクで押しも強い超マイペース男子の研究室ラブコメディ。
のほほんと寝転がった青年に無地の背景、すっきりしたタイトルの文字が、
爬虫類率の高いリアルな描きこみの動物達の存在を際立たせている。
鳥肌オシャレデザイン。
出版:祥伝社
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【第62位】 BTOOOM! 12巻 / 井上淳哉
11巻から、ゲームパッケージ風のフォーマットがDXBOX720からDXBOXΩへと元ネタよりも先にパワーアップして、白部分が黒になった。2巻は集合系の臨戦態勢イラストなので、リアルなゲームっぽさに拍車がかかっている。
いっそのこと、CAVEがシューティングゲーム化したらどうなるか…
なんて妄想をしたことがある人は、『おとぎ奉り』も含めて結構いる気がする。
出版:新潮社
装丁:ARTEN 山上陽一
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【第63位】 ちろり
3・4巻 / 小山愛子
昨年紹介しつつ、また今回もいいな〜と思った3、4巻。型押しというアナログな加工が、ビニールコーティングのない紙と懐かしい雰囲気のイラストに組み合わさると、紙工作的というか、相乗的に本のアナログ感が上がる。これがこのカバーの気持ちよさかな、とふと思い至った。
出版:小学館
装丁:田口孝敏
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【第64位】 18日の日曜日 / たうみまゆ
父の七回忌に集まった3姉弟妹のオムニバス。
個人的に「寝そべリング」と呼んでいる頭を寄せ合って円を作る
構図のイラストになっているが、背景を白にした上でイラストを
緑色にして草むらの上で寝そべっているような朗らかさを出しつつ、
キャラの存在感を強く出している。
6文字のタイトルは、黒文字で等間隔に載せられつつ、
「の」の字だけが灰色で位置もずらされて、
重めのタイトルに軽やかなアクセントを生んでいる。
出版:講談社
装丁:川谷デザイン
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【第65位】 絶望の犯島 100人のブリーフ男
vs1人の改造ギャル 1巻 / 櫻井稔文
ギャルに改造された男が、離島で体を狙う100人のブリーフ男達と対決する、笑いと絶望のサバイバル作品。
100人全員いるのではないかと言うほどみっちりブリーフ男達の詰め込まれた1枚絵の背景の上に、タイトルとポロポーション抜群の改造ギャル(男)が載っている。キワモノな素材をシリアスに仕上げた表紙。全然普通ではないサブタイトルが、絶妙なレイアウトでカッコよくしか見えない。
出版:双葉社
装丁:神楽坂マガジン社 古谷昌博
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【第66位】 神は細部に宿るのよ 3巻 / 久世番子
「暴れん坊本屋さん」作者の被服生活コミックエッセイ。
一昨年に2巻を紹介した実写を使ったデザイン。
高そうな紙袋からはみ出した、大小様々なネックレス。
紙袋の黒い持ち手、黒い帽子に黒いリボン。
ゴージャスな表紙の中心で、
小さな番子キャラが一番ゴージャスなオーラを放っている。
出版:講談社
装丁:東京100ミリバールスタジオ 松田剛
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【第67位】 インターウォール / 佐々木充彦
広大な商業施設「リバーサイド・シティ」を舞台に繰り広げられる、詩的なボーイミーツガールSF長編。コンサートホールの座席からこちらを見つめる人、人、人。個を主張しない人の群れがカバーになって、600ページに及ぶ物語を1冊にまとまた分厚い本体を囲んでいる。主人公は裏表紙に、大勢の一人としてまぎれている。それは本が物語の空間そのものを閉じ込めているようであり、本のずっしりとした重みは、壮大なストーリーと重なり合って、その手に世界の存在を主張する。電子書籍では、きっと真似できない。
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出版:パイインターナショナル
装丁:大原大次郎
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【第68位】 ワカコ酒 1巻 / 新久千映
さすらいオンナ一人酒マンガ。
美味しく見せるより、美味しそうなリアクションを取るキャラを見せる、
白、薄い黄色、茶色、ピンク色の独特な4色構成で、
これがよく目立って上手く中身を宣伝している。
色合いの妙が魅力を生んでいる分、
色の薄いamazonの書影が結構損している気がする。
(うちのディスプレイの問題かもしれないが)
出版:徳間書店
装丁:AFTERGLOW 森本沙央理
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【第69位】 ラティーノ 1・2巻
/ おおひなたごう
おしゃれな肉食獣女子作品。
素材のクセの強さを生かすシンプルな味付け。
「ら。」のフキダシが命を吹き込む。
出版:講談社
装丁:井上則人デザイン事務所 井上則人
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【第70位】 カフェ☆グリーフシードへようこそ! /
Magica Quartet, 陽菜コトリ
魔法少女達がカフェで働く、『魔法少女まどか☆マギカ』のスピンオフ4コマ。
見た目でわかる明らかな「まどマギ」系作品でありながら、デザインがbalcolonyではなく、「まどか☆マギカ」の文字が入らないタイトルが大きくイラストに載せられるデザインのアプローチが新鮮で、スピンオフ作品の中でも個性を発揮している。
出版:芳文社
装丁:川谷デザイン
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【第71位】 王国の子 3巻 / びっけ
横たわる少年国王、傍には瓜二つの影武者。
杯が転げ、赤い液体が広がり、青い花が散る。
待ち受けるであろう悲劇を美しく飾った表紙。
出版:講談社
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【第72位】 ホクサイと飯 / 鈴木小波
売れない漫画家が縫いぐるみの相方と共に、日々の飯と全力で取り組む、グルメ漫画というか飯作り漫画。
枠の中に入った。台所での調理風景を魚眼レンズ的な構図で描いたイラスト。外側が薄い小豆色で、中が黄色。黄色がピッタリイラストを埋めるわけでなく、ずれて曲がってはみ出して、くせと味を生んでいる。ずれた黄色がすこしかかった背表紙も面白い。
出版:角川書店
装丁:Pri graphics 川名潤
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【第73位】 屋上の君 / 瀬川藤子
ひとりぼっちの小学生と屋上の幽霊の自分探し学園ファンタジー。
手を繋ぎあう少女と幽霊。地面を描かずにフェンスだけ置いて空を広めに取った開放感のある構図。イラストの塗りはアナログで、絵画のような色むi色むらのある青空に浮かぶくっきりと白いタイトル、作者名の文字が色的にも塗り的にも心地良いコントラストを構成している。四角い枠にタイトルと作者名が収まった背表紙込みで3次元的に見たときに特に良さを感じる。
出版:講談社
装丁:平谷美佐子
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【第74位】 坂本ですが?
1・2巻 / 佐野菜見
売り上げに多大な貢献をしたであろうスタイリッシュなカバーデザイン、その立役者、集中線。2巻も大体同じ感じになるだろうと油断していたところに出てきた、まさかのねじりアレンジ。お握りのフィルム取りが旋風を巻き起こす、この全力のくだらなさには、『秋津』派の自分も笑うしかなかった。
出版:エンターブレイン
装丁:note 芥陽子
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【第75位】 聲の形 1巻 / 大今良時
ろうあにイジメ。痛みと向き合った青春物語。
物語は高校生になった二人が再び出会うシーンから始まり、
そこからすぐに小学生編に突入する。なので小学生の二人が、
広い教室との対比で幼く見えるような構図で描かれている。
難しい(なじみの無い)文字を優しく教えるかのように
タイトルロゴが丸みを帯びつつ優しく目立っている。
出版:講談社
装丁:RedRooster 高木紗耶
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【第76位】
あるみちゃんの学習帳
1・2巻 / 金田一蓮十郎
ロボット女子高生コメディ。
アラレちゃんのように首が取れる主人公の特徴をポップにデザインで表現した表紙。フキダシ形のタイトルや下部の英字タイトルエリアが装飾要素として大きく寄与している。
出版:集英社
装丁:BALCOLONY.
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【第77位】 共学高校のゲンジツ
2巻 / さぬいゆう, 伊丹澄一
昨年版第232位。
地面系タイトルの料理の仕方が面白かった1巻、
そして2巻でぐっと来たのが色合い。
黄色と黒のボーダーシャツ、2色の敷きレンガ床。
かなり色あわせありきの構図になっている気がする。
出版:小学館
装丁:ベイブリッジスタジオ 黒木香
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【第78位】 ぼくらの17-ON! 1巻 / アキヤマ香
“俳句甲子園"出場を目指す高校生達の、俳句青春グラフィティ。
見下ろし視点の、背中合わせの制服少年少女。
白い背景と合わさって、淡くて細やかな濃淡のある塗りが
柔らかさと爽やかさを感じさせるイラスト。
くっきりと黒いロゴがイラストに重なることで、
イラストの繊細さがより際立っている。
出版:双葉社
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【第79位】 東京喰種トーキョーグール
7巻 / 石田スイ
6巻まで白色だった背景が、血のような赤へ。
この巻を境に背景は有色タイプに変更になった。
イラストには、1巻ぶりに大きく風貌の変わった主人公をチョイス。
物語のターニングポイントに合わせて、
上手い具合にフォーマットに変化を開始させた。
出版:集英社
装丁:L.S.D. シマダヒデアキ
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【第80位】 廃墟少女 / 尚月地
「廃墟」「こわれゆくもの」をモチーフにした作品が収録された短編集。
タイトルから想像できる理想的イメージを軽く超えてくる、
「廃墟少女」としか言いようが無いイラスト。
イラストに負けず劣らず美しい文字の造詣。
表紙が表紙だけで世界を構成するほどの空気を持っている。
中に小説が入っていても違和感が無いかもと少し思った。
出版:講談社
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【第81位】 高橋さんが聞いている 1巻 / 北欧ゆう
「関くん」系譜、と個人的に分類している
盗み聞きツッコミギャグマンガ。
シンプルで過不足ない表紙ながら、
無音のヘッドホン少女が、男子二人のフリーダムなやりとりを盗み聞きする、
というイラストの説明とタイトルだけで内容が伝わってしまう、
そのわかり安さが魅力。
袖の処理に「関くん」リスペクトを感じる。
出版:スクウェア・エニックス
装丁:uni-co 杉本智行
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【第82位】 ケンガイ
1・2巻 / 大瑛ユキオ
バイト先で、職場の先輩達から「圏外」呼ばわりされる先輩女性に恋した男性が、先行き険しい道を選ぶ恋愛作品。1巻が陸橋の階段赤紫、2巻がビルの屋上で青。人物以外に有機的要素を排して色調を統一したクールで冷たい表紙。表紙からも伝わる強烈な「ツン」、もとい拒絶のオーラ。物語に、そして表紙に「デレ」が訪れる日は来るのだろうか。
出版:小学館
装丁:ARTEN 石川照美
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【第83位】 かくかくしかじか 2巻 / 東村アキコ
東村アキコの自伝エッセイ漫画。
1巻と大きく違わないながら、1巻よりもと思ったのは、
マフラーの青色が絶妙な差し色になっているのと背景の、
植物にある黒い影部分が絵を引き締めている、
と言うか色のバランスが自分好みになったからかもしれない。
もしくは単に買うときの内容の期待値が1巻の時よ高かったからかもしれない。
出版:集英社
装丁:ツノッチデザイン 角田正明
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【第84位】 みどりの星 2巻 / 真造 圭伍
宇宙の運送会社バイトが不時着した星でカエル似の原住民と一緒に
てんやわんやなSFボーイミーツガール作品。
南国の雰囲気がある色合いがいいなと思った2巻の表紙。
ロゴがビニョーンと面白い形をしていて、
ぱっとみ読めるのに、まじまじと眺めると、
逆によく読めるなと不思議に思えてくる。
出版:小学館
装丁:セキネシンイチ制作室
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【第85位】 夜見の国から 〜残虐村綺譚〜
/ 池辺かつみ
津山事件を下地とした劇画作品。
赤黒い枠に村の暗がりや血しぶき、狂気を秘めた男の目など、陰惨なカットを詰め込みつつ、赤と暗いイラストのコントラストで和風の美しさを感じられる表紙。リアルな血の指紋が禍々しくも芸術的。本にかなりの厚みがあるため、背表紙には表紙と同じタイトルの文字組みを行っていて、背表紙単体で見てもタイトルが主張していてよく目立つ。
出版:日本文芸社
装丁:crazy force 竹内亮輔,梅田裕一
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【第86位】 ちいさこべえ
1・2巻 / 望月ミネタロウ,山本周五郎
山本周五郎の時代小説を、時代設定を現代に翻案したコミカライズ。
原作の舞台が江戸時代なので、ひきづられるようにどこか懐かしい本作。充てられた手書き風の文字が、よく馴染んでいる。巻数表記も、「いち」「に」とあえてのひらがな。
出版:小学館
装丁:井上則人デザイン事務所
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【第87位】 ギャングース 1巻
/ 肥谷圭介,鈴木大介
犯罪者だけをターゲットにした窃盗団の物語。
鼻汁ブシャーな小太り主人公にはシルバーの着色。タイトルにはスプレーで吹きかけられたような色が交じり合ってる。右上には防犯メモ的な一言。毒々しくてかっこよくも、イラストがイラストなのでどこかコミカル。
出版:講談社
装丁:L.S.D. シマダヒデアキ
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【第88位】 くーねるまるた 1巻 / 高尾 じんぐ
貧乏だけど食いしんぼーなポルトガル人、
マルタさんのエンゲル係数高めな日々の生活を描いた作品。
飛び跳ねるマルタさんに合わせるように角度の付いたロゴ、
一緒に飛び跳ねる身近なごちそう。
次々生まれる食・グルメ系作品の中で、
「元気」「明るい」「楽しい」と根源的なところをアピールする。
出版:小学館
装丁:ベイブリッジスタジオ 黒木香
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【第89位】 光圀伝 2巻 / 三宅乱丈, 冲方丁
冲方丁による同名水戸黄門小説の、『イムリ』作者によるコミカライズ。
押さえつけられ、のど元に刃物をつき立てられた危機的なワンシーン。
満身創痍のイラストが表紙を飾るのは思いつくけれど、
リアルタイムのピンチは珍しいな、とひきつけられた。
出版:角川書店
装丁:セキネシンイチ制作室
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【第90位】 新装版
魔法少女チキチキ
上下巻 / 小池定路
ファンシーな背景や可愛いロゴで魔法少女らしさを演出しつつ、袋文字などを使わずに大人びたデザインにまとめていることが、旧版と比較するとよくわかる。
出版:竹書房
装丁:ISO DESIGN WORKS
磯崎真也
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【第91位】 mon*mon / シモダアサミ
悶々とした悩みを抱えたニッッポンのアラサー、オムニバス作品。
全面のピンクと線画の黒、文字の白。
すっきりと可愛らしいカバー。
布目のような表面仕上げが高級感を出していて、
見たときよりも手に取っているときに
その良さを感じ取れ易い。
出版:太田出版
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【第92位】 ルドルフ・ターキー 2巻 / 長蔵ヒロコ
カネと女と権力を愛し、正義も悪も自分次第。
大都市の次期市長となる悪い男の痛快娯楽活劇。
葉巻を加え、ネクタイを外しつつふてぶてしい笑顔を向ける主人公。
焼け焦げた紙幣が空を舞っている。
背景は赤で服も一部赤。暖色が多く、目の青さが目立つ。
ワイルドで上品。
出版:エンターブレイン
装丁:林健一
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【第93位】 教師諸君!! 3巻 / 駒倉葛尾
祝完結の教師たちの日常系、学園4コマ。
毎年紹介しやすい作品があると助かるね、ということで
年1冊、紹介のほうもこれでコンプリートとなった教科書デザイン。
最後はミュシャ風。
凝った絵画デザインが金色の使いどころとして実にマッチしていて、
優雅なフィニシュとなった。
出版:芳文社
装丁:葛西恵
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【第94位】 とっかぶ 1巻 / 桑原太矩
放課後の人助け系課外活動作品。
商店街の真ん中でポーズを決めて目立つ少女と、
謎のアイテムを構えた怪しい少年、そして極太ひらがなの4文字タイトル。
よくわからないけど、面白そうで気になる系。
この作品に限らないが、仮面ライダーっぽい変身ポーズは、
表紙を飾る人物のキャラ付け記号として結構優秀だと思う。
出版:講談社
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【第95位】 ハクメイとミコチ 1巻 / 樫木祐人
背丈は9センチほどの小さな人達が暮らす世界を舞台に、
森で暮らすふたりの女の子の日常を描いた緩やかなファンタジー作品。
ちっこいキャラと森の風景が丁寧に描き込まれたイラスト。飾り枠と気の利いたタイトルBOXが、作品の美しい箱庭感を引き出している。タイトルBOXのとデザインを合わせた背表紙には、色なく描かれたキャラのカットが、エンブレムのようで良い目印になっている。
出版:エンターブレイン
装丁:8823DESIGN 内田圭祐
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【第96位】 ニポンゴ 2巻 / 空えぐみ
無国籍女子高生スクールライフ4コマ。
「ポ」の字に日本列島を載せた、
アンバランスで妙な存在感があるロゴ。
お国柄をネタにした風刺漫画的なイラストが
表紙として見栄えのする構図で描かれている。
2巻のお題は流しそうめん。
あるあ・・・ねーよ!
出版:集英社
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【第97位】 事件記者トトコ! 1巻 / 丸山薫
残念な記者がスクープを求めて活躍したりしなかったりするドタバタコメディー。
アンパンを加えて元気に飛び出す主人公のイラスト。円形状の背景エリアを主人公で区切り二つに分け、朝と夜の風景を同時に収め、キャラの忙しない奮闘振りを表現している。
出版:エンターブレイン
装丁:BROS 松本ムネユキ
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【第98位】 午後のグレイ 1巻 / 活又ひろき
宇宙人による人体実験コメディ。
はみ出させるように両脇に寄せた2キャラバストアップ。
背景は住宅街の道と夕暮れ。
人外ヒロインの可愛さが出ていて、主人公が
ロクな目に合わなさそうなことも想像できる。哀愁+コミカル。
2巻が出そうにないので、背表紙のこんにちは的なイラストが
バイバイに見る。悲しくて仕方が無い。
出版:講談社
装丁:banjo 坂上和也
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【第99位】 清新作品集 12連休 / 吉田 覚
日常の延長的な、コミカルで小気味いいお話の集まった短編集。14個のイラストが、タイトルと共に等間隔に並んでいる。構図の違う良く描き込まれた1枚絵の集合は、それぞれがクリックを待つサムネイル画像の集合のようにも見える。短編集の表紙としてありそうでなかったストレートなアイディアだが、収録内容の多彩さが伺えて、何より作品の楽しげな雰囲気が伝わってきてとても気持ち良い。そして、1話を1日のお休みに見立てて、贅沢な12連休に招待するタイトル。なるほど、面白い入り口になっている。
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出版:エンターブレイン
装丁:林健一
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【第100位】 ラララ 1巻 / 金田一 蓮十郎
過去の本企画の流れで、ラストは裸かイカちゃんを置いておけばいいだろうと記事にオチをつけるための手段が目的に変わる中、全裸な表紙を探してみると1年間で新刊として数作品見つかった。そもそも裸がキーになる作品が(一般紙作品の中で)そこそこ存在していそうな気配すらあり、この作品もそのうちの一つである。しかし、この表紙の女性は聴診器をしているため、これは限りなく全裸に近い半裸と分類すべきなのかもしれない。
出版:スクウェア・エニックス
装丁:arcoinc 楠目智宏
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ここまでがランキング発表。
最後に、カバー下や見返しなど別なところに注目した作品を別枠で24作品紹介していきます。
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【見返し賞】 ジゼル・アラン 4巻 / 笠井スイ
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年刊ジゼル・アラン見返し通信、と化している見返し賞。見返しの美しい作品は数あれど、
ジゼルとエリックの恋の行方、見返しの柄、その両方が楽しめるのはこの作品だけなのである。
さて4巻はどのようになっていたかというと、葉っぱの縦横繰り返しパターンが正方形の格子を形作っている。
開いた読者の目を潤すいつもの見返しであるが、見所がもう一つ存在する。
ここは、左ページの左上のあたりを注意して見ていただきたい。
おわかりいただけただろうか。
(ここで紹介画像にマウスを乗せる)
そこには羽を休めるかのごとく、小鳥が一匹仕込まれていて、見つけるとちょっとほっこりする。
さりげない演出なので、4巻を買って見返しを眺めていたけれど今気づいた、
という方が15人中1人ぐらいの割合でいるかもしれない。
次の巻の見返しの柄は? ジゼルとエリックの危うげな再会がもたらすものとは?
カバーのジゼルの服の色は、ネコの位置は、いったいどうなってしまうのか! 来年に続く。
出版:エンターブレイン
装丁:note 芥陽子
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【見返し大賞】 月とにほんご / 井上純一,矢澤真人
『中国嫁日記』の番外編的な位置づけで、日本語学校のお話と日本語の不思議ネタが描かれた作品。
表紙をめくると、中国嫁の「日本語学校に行きマス」宣言に
作者が仰天する1コマが見開きで展開される。
冷静に見れば「そういう内容だからね」という感想で終わるが、
見返しで不意打ちのように目に飛び込んでくると、
左の作者のリアクションにシンクロして、すごいことを宣言された気になり、読む勢いがつく。
ラストの見返し部分には、数ページ前から続く中国嫁のあとがきの締め部分が重なり、
残りの部分に奥付が掲載され、最初の見返しから最後の見返しまでが1つの作品という
色合いが強く出ている。
出版:アスキー・メディアワークス
装丁:cozfish 祖父江慎, 鯉沼恵一
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【目次賞】 薄花少女 1巻 / 三浦 靖冬
アポトキシン4869怪しい薬で小学生まで若返った七十九歳家政婦と、仕事で実家を離れた奉公先の息子。
年の差な、ふたりの共同生活作品。
最初の1ページが遊び紙になっていて、表にはタイトルと作者名、裏には少女のシルエットが印刷されている。
表から見たときには下のカラーページを透かしつつ、シルエットが柔らかく浮き出ている。
そしてページをめっくたものがこちら。
表から見る場合には一歩引いてタイトルを引き立てていたシルエット、
そこには目次が重ねて印刷されており、
裏から見た場合には、目次をオシャレに飾る影絵のように目に映る。
IKKIのロゴ部分はシルエットをくり貫いて形成されており、
裏から見ると文字が反転して、遊び紙の裏表感をさりげなく印象付ける。
▲
おまけでエピソード間のつなぎ部分も紹介。
話が終わった後にはエピソードの残り香がもれる様に、
話が始まる前には音から物語が始まるように、
フキダシや擬音の入ったページが必ず挟まれている。
終わりの次のページには各話のタイトルと了の文字、初出の情報もあり。
ゆったりと閉じ、ゆったりと始まる、そのページ構成が余韻を生んでいる。
出版:小学館
装丁:chutte
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【目次大賞】 アリスと蔵六 1・2巻 / 今井 哲也
超能力少女ミーツ頑固じいさん。ハートルフルSFファンタジー作品。
本企画では、大体の上位作品を表紙+その他の2ページいう形式で紹介する。
そのため表紙がかなり好みである場合に、目次に1ページが使われず、袖部分に目次がくると、
上位で紹介する場合のネタをひねり出すのが難しいという至極動どうでもいい理由で
袖タイプの目次には苦手感がある。加えて、1ページ使った目次の方が面白いという
認識があったが、袖に目次があるのもオシャレだな〜と思えたのがこちら。
表紙の白色が続きつつ、上部にカラフルな縞模様が入っていて、
まず感覚的に表紙⇔袖のエリア分けがきっちりする、そして綺麗。
ここの配色は、タイトルロゴの英語表記部分と同じで、
この縞は各話のタイトル部分、幕間のタイトルロゴの下等にも使われている。
目次の記入部分は点と線で区分けされ、スマート。
その横には花があしらわれている。
下には初出情報、さらに一番下のイラストは、
この作品で超能力が発動するときのエフェクトというかインターフェースというか、
直接は関係ないけどこれが好きなのである。
部分の要素を解説してみて、何が良かったのか伝わる気がしないが、
表紙をめくって袖が目に入ったときに感じが良かった、
その一言で十分かもしれない。
出版:徳間書店
装丁:アフターグロウ 山崎剛
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【袖賞】 ワンパンマン 1・2巻 / 村田雄介, ONE
その強さ故に敵をパンチ一発で倒してしまう平凡ヒーローの活躍を描いたWEBマンガの、
村田雄介によるリメイク作品。
ジャンプコミックスの慣習で入る各巻ごとのサブタイトルを巻数とまとめて
上手に処理した、アメコミチックでナイスな表紙の話はここでは置いておいて、
ここでは袖を紹介する。
見ての通り裏表紙と後ろ袖が続き絵になっていて、
建物や地面の角度が大きく変わる場所を折り目の部分に合わせている。
開いて左側から光を当て、片目で見ると「オッ」と思うくらい立体的に見えると思います。
と言う村田先生のアドバイスを実行してみると、
目の錯覚的なイラストの立体感を楽しむことができる。
単行本を集める動機にもなり得る、目に楽しいオマケ。
しかし何故立体的に見えるのか、とても不思議。
出版:集英社
装丁:-
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【導入賞】 紅い実はじけた / 高橋那津子
男女の心が大きく変わる一瞬を描いた、7篇の読みきり連作。
表紙にはバスで相席した、学校帰りと思しき男女の姿が描かれている。
表紙をめくると、二人の次の瞬間が始まる。
降車駅で起こされて先にバスを降りる青年。
一人になった後、女子はその温もりを思い出して頬を赤らめる。
困った、気持ちが収まらない!といった表情を浮かべる女子のワンカット。
そしてこの見開きがタイトルページと目次ページを兼ねて、
それぞれの物語の始まりを告げる。
百合姫で言う「カバーストーリー」が
本編に挑む読み手の気持ちを盛り上げる、気の利いた導入。
目次ページの使い方としても印象深い。
出版:エンターブレイン
装丁:林健一
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【奥付賞】 富士山さんは思春期 2巻 / オジロマコト
中学2年、181cm女子と160cm男子。交際を始めた思春期な二人の日常を描いたラブコメ作品。
ヒロインがネコを撫でる見開きイラスト、ここが奥付。
ページをめくると、まだネコを可愛がっている。ここも奥付。
ここで終わり。
題名、著者、発行者、発行所、印刷所など、
書誌事項と呼ばれる書籍の一般情報が記載されている奥付。
レーベルによってはデザイナー、編集者等の情報も記載されているが、
基本的には無味乾燥で一番面白くないページ。
必要な情報を伝えるためのページなので面白くない、
または面白くしづらいのは当たり前。
なので、5ページのオマケマンガに奥付をくっつけるのは当たり前ではなく、
そこには作品の最後の1ページまで楽しめるようにする明確な意図が感じられる。
アクションコミックスは奥付をいじれるイメージが無かったが、
過去の作品を確認してみるとそうでもなかった(上で紹介した『奴隷区』も手が込んでいる)、
と認識を新たにできたことは、今回のちょっとした収穫であった。
出版:双葉社
装丁:ベイブリッジ・スタジオ 黒木香
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【幕間賞】 カタミグッズ / 野村 宗弘
祖父を失い、いつか取り壊されるその家でカタミと共に思い出を振り返る女性のお話。
中表紙。
葬式で使われる白黒のアレ、鯨幕。
そして目次。
中表紙から直接目次に続いても違和感はまったくない。
その間の見開きに、作者イラストが入るわけでなく、あえての鯨幕。
冗長性を持って、本編より先に追悼のムードを作り上げる。
中身でこういった演出をするぐらいなので、
表紙も当然凝っていて、和紙のような手触りのカバーに、
人物が体育座りとギリギリ認識できるくらいのアップで
大胆に配置されたそのデザインも中々に印象的。
全体的な和の雰囲気に合わせるように、「講談社」のクレジットも
表紙と中表紙には古い名称「大日本雄辯會講談社」で記載されている。
出版:講談社
装丁:Maniackers Design 佐藤正幸
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【表裏賞】 アホガール 1巻 / ヒロユキ
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昨年は、裏表紙の猟師が表紙のうさぎをカゴの罠にかける『山賊ダイアリー』を表裏賞で紹介したので、
今年は、アホの子をカゴの罠にかけるこの作品を紹介する。
こんな風にカゴネタでかぶると、いったい誰が予測できたというのか。
そして中表紙でオチる。
その知能は、ウサギとタメを張る。
そんなアホの子のアホを延々と鑑賞する4コマ作品である。
目次や間のページも、結構しっかりデザインの手が入っている。
出版:講談社
装丁:アルティザン 倉地悠介
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【予告賞】 甘々と稲妻 1巻 / 雨隠ギド
高校教師の父と娘、教え子。料理が愛をはぐくむ、あったか食卓ドラマ。
おそらくこの作品をジャケ買いした人も相当いて、普通に上位で紹介するという選択もあったのだけれど、違うところにも言及したかったので、こちらの枠に持ってきた。では何を言及したかったかと言うと、予告ページ。
シンプルなものであると、一枚画のイラスト+煽り+発売日。そこからカットを増やす、ネームを掲載するなどアプローチは色々あるが、一目で作りこんでいて綺麗だと思えたのがこちらだった。
本編のカットを綺麗にレイアウトして、中身のチラ見せから発売の告知まで、漫画のように読ませる流れを作っている。ちょっと大げさな煽り方も含めてまさに予告。文字組みの美しさも、予告ページならではのものがある。
そもそも、予告ページ自体が必ず必要な代物ではなく、例えば同じgood!アフタヌーンのレーベルでも『亜人』には入っていかった。予告された月になっても発売されるなんてこともあり、見る人も見ない人もいて、ページとしての優先度は低い。なので、逆説的に言うと、優先度の低い予告や奥付に手が掛かっているような場合、本全体が丁寧に仕上がっていたりこだわった部分が多い可能性はきわめて高い。感覚で言うと、優先度はこんな感じ。
カバー > 目次,中扉など導入部分,帯 > 幕間,おまけ,カバー下 > 奥付,予告 > 既刊リスト,カバー裏
そう言う視点で見てみると、料理漫画ではお馴染みのレシピページ(画像左)完備はもちろんのこと、おまけのカットを入れたページ(画像真ん中)にも背景色を持たせたりと一手間加えている。裏表紙のあらすじに使われているフォントがこれまた美しく、イラストと合わせて画になっている。
出版:講談社
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【特殊装丁賞】 しあわせになりたい / 売野機子
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長短7篇を収録した少女漫画系作品集。カバーには表題作をモチーフにした、タクシーの後部座席に寄り添う2人の少女が描かれている。窓に映る夜の街並みは実写。これはカバーの下に印刷されている。カバーの半透明に透けた窓の部分に実写部分を薄く映らせるこの方法は、合わせるのが難しいイラストと実写とを違和感無く同居させ、また視覚的な奥行きを生んでいる。実写の夜景は、カバーの白色部分にもぼんやりと映りこみ、色のないカバーを優しく夜で染め、それらはカバーを外すと鮮やかに全面に広がり、また美しい。設計の行き届いた2層装丁だった。*
と、上記が雑誌掲載時の紹介文。始めが夜景(画像右上)、終わりが朝日(画像右下)と、見返しも凝っている。本企画の2010年版で紹介した『薔薇だって書けるよ』から半透明カバーシリーズも3冊目。売野先生は連載を持ち、デザイナーさんも精力的に活動しておられてとてもいい感じである(雑誌だと直しの入る表現)。
出版:白泉社
装丁:平谷美佐子
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【アイディア賞】 春になるとウズウズしちゃう
上・下巻 / 藤村歩実
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全寮制の学園で、女子高生たちがエキセントリックな日常を謳歌する4コマ作品。
正面を真っ直ぐ見据えた人物の顔のイラストを載せた本体に、
文字や模様を印刷したクリアカバーをかけて、顔に落書きが書かれたように見せている。
ゲスい落書きに目が行ってしまうが、長いタイトルをわざわざ顔に重ねるそのレイアウトも中々大胆。
変なことで目立たせつつも、全体的にはとてもおしゃれに感じられる。
ちなみに、2巻の落書きには、
ヒゲや「磯野ー!乳首相撲しようぜー!」という
声に出して読みたくなる日本語と共に、
同じスクウェア・エニックス刊行の
「どーにゃつ」のキャラクターが紛れ込んでいる。
2巻では、雑誌で話題になった、作者が締め切りぶっちぎりしたことへの罰としての
上下逆さま掲載が注釈付きで再現されているが、狂気じみた作品を読めば、
これがやんちゃなお遊びであったこともすんなり理解できる。
出版:スクウェア・エニックス
装丁:草野剛デザイン事務所 草野剛
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【造本賞】 ありがとう / yum
「ありがとう」をテーマに描いた7篇が収録された短編集。オールカラー作品。
左が本体で右がカバー。カバーの紙が薄いため、本体の水玉模様が薄っすらとカバーに映りこむ。
そんな水玉模様の本体の背表紙を見てみると、文字がない。というか一枚の紙になっていないので
文字を印刷する場所が無い。なんだこれはというこの背表紙の答えは、amazonの商品説明にあった。
※書籍の上部がきれいにカットされておりません。また、背表紙も糸と糊のみでとめているため、たいへん開きがよくなっております。これらはすべてデザイン上のものですので、乱丁本ではございません。
ページの開きがよくなるように、中綴じの集合が赤い糸と糊でまとめられているのだった。
いくつかのページ(中綴じの中心)では、赤い糸による継ぎ目を確認できる。
こんな風に、全てのページが気持ちよく開いて、とても快適。
さらに、薄茶色の紙に印刷されたオールカラーの作品に馴染んでいて、
手作りのような温もりを感じられる本に仕上がっている。
美しくデザインされた手書きのあとがきページも見どころ。
出版:飛鳥新社
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【パロディ賞】 北斗の拳 イチゴ味 1巻
/ 行徒妹,河田雄志,原哲夫,武論尊,行徒
悪役キャラクター・サウザーをメインに据え、
サウザー周辺エピソードをいじり倒した『北斗の拳』のギャグ作品。
原作のデザインをなぞったジャンプコミックスライクなパロディーカバー。作画の再現度が無駄に高く、原哲夫と武論尊のクレジットまで揃っているため、沢山のサウザーとケーキでバカバカしさを出しながらも、かなり元ネタの雰囲気に似せることができている。タイトルロゴは同じように見えて、多分怒られない範囲でそこそこ違う。
あらすじも、この通りパロディ仕様。袖の自画像や読者感想ページなど、他にもパロディが仕込まれており、ジャンプコミックス版の原作が手元にあると、芸の細かさをより楽しむことができる。
出版:徳間書店
装丁:crazy force 竹内亮輔
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【帯賞】 バーナード嬢曰く。 / 施川 ユウキ
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学校の図書室を舞台に、名著の紹介を兼ねたマンザイが繰り広げられるショートギャグ作品。
紹介する帯は第2刷、つまり重版したときのもの。
4位で紹介している『重版出来!』、そのタイトルは作品に付ける
ものとして個性的であると同時に、他作品で重版という言葉が出てくる度に連想されやすくて
かなり美味しいと思っていたので重版した作品が上手く乗っかってくることは予測できた。
そして乗っかりと言うかエールと言うべきかこっそりとしたコラボ的なものを確認できたのがこちらの帯。
これが同じ小学館の作品だと普通に流してしまったかもしれないが、
作者がチャンピオン系で出版は一迅社、デザイナーさんももちろん違う。
垣根を越えたお遊びに、ちょっといいね!を押したくなった。
出版:一迅社
装丁:hive 久持正士
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【帯大賞】 ぼくの妹さん! / 春日旬
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変態シスコンお兄ちゃんとのめくるめく日々、と帯に書いてある通りの作品。
無防備に座って笑顔を見せる妹さん。
帯には、妹さんの縞タイツをはいた足が印刷され、
大きめの帯が白い板となって足を跨がせているように見える。
ちょっとエッチな作品を買ってパターンを知っている人であれば、
帯の下になにが隠されているかは容易に想像が付く。
「帯がないとレジに持って行くのが(もっと)恥ずかしくなる系の表紙」だと思い至る。
そして帯を外す。…残念、お兄さんでした。
そっと帯を戻す。
出版:双葉社
装丁:arcoinc 楠目智宏, 池田悠
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【変態賞】 クルミくん NO FUTURE / ノッツ
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特殊な発動条件によって未来予知が出来る、頭に芽の生えた大学生のほんのりエッチな4コママンガ。能力の発動条件は、書影にカーソルを合わせて裏表紙を表示させたり、作品名で検索したりすればわかるというか、しなくてもわかる。
表紙で涙を流す人物をより印象深くするときに、涙の部分だけをビニールコーティングやニス加工で際立たせる常套手段があるが(例:151位『失恋日記』)、この作品はソレをアレに使っている。エロさを狙っていない(いや、手とかは狙っている)スタイリッシュな変態デザインと言えるけれども、IKKIさんはいったいナニを書籍化しているんだか。
中表紙はボックスティッシュ(画像右上)で、各話の表紙には丸めたティッシュ。話数に応じてティッシュの数が増えていく。
出版:小学館
装丁:chutte
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【完全版賞】 ミスミソウ 完全版 上・下巻 / 押切蓮介
ぶんか社刊行スプラッタ・ホラー作品の双葉社からの完全版。
縦配置の文字情報に大きな上・下巻の表記。
ペンダントを見つめて涙を浮かべるヒロイン。
白い背景に白い服。
人物に雪を重ねて、白い背景を白銀に染める。
上下巻で、その構成はほぼ一緒。
同時発売である2冊を2コマ漫画のように使い、涙を流させて、
物語の悲劇性を表現している。
その感情にシンクロさせるように、下巻はより強く吹雪いている。
出版:双葉社
装丁:Zooham Yoxxx
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【新装版賞】 新装版 極東学園天国 全4巻 / 日本橋ヨヲコ
高校までが義務教育と化した近未来日本の、破天荒青春学園ストーリー作品。
ヤンマガ掲載の完結作品が、『少女ファイト』と共にイブニングKCとして刊行された新装版。
無骨な校舎に佇む学生達のイラスト。
イラストの色の深みを際立たせる白いタイトルロゴと白い背表紙。
カバー下には、旧版の表紙が収録されている。
旧版、新装版共にカバーをデザインするデザイナーさんは同じ。
そこにロゴをデザインするデザイナーさんを加えて生まれ変わった新装版。
時代で移り変わるデザインと、変わらない情熱がそこにある。
出版:講談社
装丁:アルティザン 深海和宏
タイトルロゴデザイン:Maniackers Design 佐藤正幸
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【シリーズ賞】 モノローグジェネレーション / 小坂 俊史
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全編モノローグで進行する、風変わりな群像4コマ作品のシリーズ完結巻。
クリーム色のカバーに茶色とメインの1色が載った3色構成がこのシリーズのカバーの特徴になっている。
それぞれのメインカラーは、『中央モノローグ線』がオレンジ色、『遠野モノがたり』が水色、
そしてシリーズのラストを飾る『モノローグジェネレーション』がピンク色。
舞台を変え、タイトルを変えつつ、「懐かしいなかにどこかモダンさを感じさせるデザイン」
(過去の記事の中央モノローグ線へのコメント)で面白く統一したシリーズ全3作品。
最終作のタイトルが過去2作品より長くなりつつも、
背表紙の文字の大きさも、タイトルと作者名の高さも綺麗に揃ってめでたしめでたし。
出版:竹書房
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【豪華装丁賞】 フラワーコミックス マスターピーシーズ /
吉田秋生,篠原千絵,萩尾望都,渡辺多恵子,田村由美
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少女漫画界の革命児たちによる多彩な傑作を、作家ごとにテーマに基づきまとめた必読のアンソロジー(公式サイトの紹介文)。箔押しによる文字や飾り枠をあしらった豪華な化粧箱には、ハードカバーの本体と別紙が収まっている。
本体の表紙及び裏表紙には文字が一切無く、それぞれの作家の人気キャラクターイラストが発色よく印刷され、その一部が化粧箱の窓から顔を覗かせる。化粧箱の厚さは4cmで手に持つとずっしりと重く、5冊そろえた時の存在感は圧巻。小学館創業90周年記念に相応しいコレクション性の高い装丁に仕上がっている。(つまり、10年後が超ヤバイ)
こちらはスペシャル別紙。ハードカバー、ソフトカバー、大きな帯付き、横長など装丁はバラバラ。
それぞれの内容に合わせられた、凝った趣向の数々を楽しむことができる。
出版:小学館
装丁:ベイブリッジスタジオ 黒木香 五嶋一葉
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【良いコミック賞】 わたしの宇宙 1巻 / 野田彩子
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「この世界はマンガ、ぼくは主人公」そう自覚した少年をめぐる紙の上の世界の物語。
学生の登下校の風景が描かれた表紙イラスト。描かれ方は3段階に分かれ、まず一番手前の主人公とその周りの一部の風景がけが着色されている。次に奥の二人の人物は、しっかりとペン入れされた白黒絵。さらにその奥の人物や背景は、ラフな線で描かれたままの状態になっている。さらによく見ると、漫画用原稿用紙の青い線が入っていて、これは表紙下部に一番はっきり出ているため、帯を外したときにそれに気づきやすい構造になっている。
裏表紙はさらに一歩踏み込んで、表紙と同じ構成でネタばらしのように作品の説明が入っており、作品やカバーのメタな構造をすんなり理解することができる。
見開きの目次、そしてその前後のページ。
各話の扉ページ。このタイトルロゴについては『MdN vol.234』で解説されていて、ワームホールの概念図をモチーフにしているとのこと。話を重ねるごとにロゴがうねって基本形から大きく外れまくっている。目次に戻ると、各話の変形したタイトルロゴが並べられているということがわかる。
終わりのページ(画像左)、そしてノンブル(ページ番号、画像右)。数字が傾いたり大きさがばらばらだったり、「018」と「112」のページで分かるように同じ桁の同じ数字でも処理の仕方が違っている。目次にしても、ノンブルにしても、視認性よりも世界観に合わせたデザイン性を優先している作品。やりすぎるってすばらしい。
出版:小学館
装丁:chutte
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【良いコミック賞】 放課後のトラットリア 1巻
/ 水口鷹志,橙乃ままれ
家庭科室のオーブンは異世界の入り口?『まおゆう』作者が原作を手がける放課後“異世界”クッキングファンタジー。
チーズ?の乗ったパンを食べる制服姿の少女。タイトルにはトラットリア(イタリアの大衆向きの小さなレストラン)の文字。クリーム色のカバーにオレンジ、黒、銀の印刷。タイトルとイラストでグルメ系に見え、カラーや英語表記のタイトルの造詣でファンタジー系にも見える、それもそのはずどっちも入っていました、と後で読んで納得する。ともかく紙と色選びが洗練されていて、「お金がかかっていそう」とは別の方向で高級感を感じられるカバーデザイン。裏表紙についても、あらすじ・イラスト・バーコードエリアを区切るラインと、線画の背景を銀色の印刷で統一することで、バーコードエリアもすんなりとデザインに馴染んでまとまりが良い。
カバー下、中表紙、そして目次。
1話ごとに原作者のコラムが掲載されており、そのレイアウトもかなりしっかりしている。
巻末には原作者による小説も収録。挿絵ありで、やはり文字組みも整っている。本編の作画がとても美麗で、それに負けないしっかりしたおまけページの内容とデザイン。とても充実した1冊で、次巻の発売をとても楽しみにしている。「第2巻、今夏発売」(2013年1月時点)。
出版:ほるぷ出版
装丁:名和田耕平デザイン事務所
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【良いコミック大賞】 その男、甘党につき / えすとえむ
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ショコラをこよなく愛する紳士と悩める人々。
スーツを着こなすオールバックの男とシンプルなタイトルロゴ。
大人びた雰囲気の中に、内ポケットに忍ばせた板チョコと一緒に可愛げが潜んだ表紙。
イラストの繋がった裏側まで合わせると、男の大の甘党ぶりが露になる。
背景の模様は本体に印刷されており、男と文字の印刷された半透明のカバーに上品に映りこむ。
袖の自画像もお菓子風。
そして美しい模様の印刷された遊び紙。
遊び紙をめくると、ショコラの詰まったタイトルページが現れる。
各話のタイトルはお菓子の名前になっているので、
目次がメニューのようにデザインされるのは必然。
ここから、スウィート&ビターな物語が始まる。
ちなみに印刷もショコラのような茶色で
紙は白。紙質がとてもよくて、白と茶の色合いだけとっても美しい。
エピソードの終わりに必ず挟まれるショコラの箱。
1話終わるたびにショコラの数が1個ずつ消えていく。
最終ページに配置された奥付。
袖には、表紙や裏表紙では一歩引いてカバー下から薄っすら映っていた模様が、
このエリアではカバーに直接印刷されている。奥付、袖を合わせて、
何はなくとも最後に目にするページにふさわしくまとまっている。
一通り紹介してみたが、他にもラフスケッチのページや後書きのページなど、
どこを開いてみても隙が無い。人の寝静まった夜中にチョコレートでもつまみながら
ゆっくりと読んで、そして眺めて欲しい1冊である。
出版:太田出版
装丁:teracco
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という感じでお送りしました、
良いコミックお気に入り装丁紹介企画『この装丁がすごい!〜漫画装丁大賞〜2013』。
スクロールマウスが良い感じに疲れたそこのあなた、それはきっと、そこそこ真面目に記事を読んでくれた証です。ありがとうございました。
2014年の特集でまた逢いましょう。
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