水曜日, 2月 12, 2014

ヴォルフガング・ティルマンス「Affinity」

ヴォルフガング・ティルマンス「Affinity」

作家自身がインスタレーション空間をディレクションした、ヴォルフガング・ティルマンスの5年ぶりとなる待望の個展。


2014.01.21
Fespa Car, 2012 (c) Wolfgang Tillmans
「僕は写真の持つ物質性に興味を持っている」。2008年、ワコウ・ワークス・オブ・アートで開かれた個展の際にティルマンスはこう語った。それか ら5年、新宿から六本木に場所を移したワコウ・ワークス・オブ・アートでの個展「Affinity」を見ても、それは変わっていないようだ。額に入れたも の、壁にテープで留めたもの、クリップで吊るしたものなどが、写真の立体感を強調する。額に入れた写真の中には上のほうしか留めていなくて下のほうが巻き 上がっているものや、表面に折れ線などが見えるものも。どれもが静かに存在感を主張していて、そのたたずまいが面白い。

ティルマンスは今回も3日間ほど、ほぼギャラリーに詰めてセッティングしたという。その結果できあがった空間には、しゃがまないと見えないほど低い位置に 写真があったり、逆に高いところに貼られていたりする。観客の中には腰をかがめたり背伸びをしたりする人も。ティルマンスは作品を設置する作業を、「パ フォーマンスのようなものだ」と言ったことがある。彼の個展を見るということは、その間に行われた行為の蓄積を見ること、パフォーマンスを追体験するよう なものでもあるのだ。
in flight astro (ii) , 2010
大きく3つにわかれたギャラリー内のスペースは、それぞれゆるやかにエリア分けされている。ある部屋ではティルマンスが近年取り組んでいるレイヤー がテーマになった写真が並ぶ。車の表面にカッティングシートのようなものが貼られていたり、色のついたガラス越しの光景だったり、ガラスに光が反射してい たりと多様なレイヤーが写し取られている。別の場所にはフルーツとインクジェットの見本市の写真を集めた一角が。ティルマンスはこんなゾーニングで空間を 彼にしか作れない特別な場所に変えてしまう。

Osterwaldstrasse, 2011 (c) Wolfgang Tillmans
かつてはフィルムを使い、暗室で現像していた彼も今ではデジタルカメラとコンピュータ出力で制作している。でも彼は撮ってすぐに画面を見たり、出力 したりといったことはしないのだそうだ。「イメージを熟成させる時間が必要なんだ」と彼は語る(実際にはイメージは熟成したりはしないんだけれど、とも 言っているが)。それは「自分の願望や希望から自分を切り離す」ためだという。彼の写真に観客は、ついたくさんの物語を読んでしまう。熟成したワインから さまざまな香りが放たれるように。

今回の個展では、印画紙に直接光や感光乳剤で操作した「Silver」シリーズなどの他、2012年に出版された写真集『Neue Welt(新しい世界)』からの作品が並ぶ。彼が世界中を旅して撮った写真の他、日常を写したもの、移動中の写真も収められている。彼が現代美術作家とし てデビューしてから20年あまりの間に世界は大きく変わった。「写真はつねに、世界を経験することの転写だ」というティルマンス。彼の視線で世界の新しい 見方が生まれる。
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参考文献:『ヴォルフガング・ティルマンス』(美術出版社)