火曜日, 4月 09, 2013

時間ベースの次世代ウェブ「ワールドストリーム」構想

近いうちに、インターネットの情報は空間ベースでなく時間ベースの構造になるだろう。動的で常に流れ続 ける、時間それ自体に似た構造だ。1990年代に「ライフストリーム」概念を提唱した著者による「新しいウェブ」構想とは。

TEXT BY DAVID GELERNTER
TRANSLATION BY RYO OGATA, HIROKO GOHARA/GALILEO

WIRED NEWS (ENGLISH)

Illustration: Ross Patton/WIRED
著者のデヴィッド・ガランターはイェール大学のコンピューター科学教授で、「Lifestreams.com」の チーフサイエンティスト。著書多数で、邦訳に『ミラーワールド―コンピュータ社会の情報景観 』(ジャストシステム、1996年)がある。

現在のウェブは空間ベースだが、それは次第に時間をベースとした「ワールドストリーム」に置き換わっていくだろう。この動きはすでに起こっている。

始まりは「ライフストリーム」だった。わたし(とエリック・フリーマン)は、ライフストリームという現象を1990年代に予言し、 1997年2月のWIRED記事(英文記事)でも紹介された。

ライフストリーム、すなわち、雑多な内容の検索可能なリアルタイムのメッセージの流れは、ブログ投稿とRSSフィード、Twitterなどのチャット、さらにはFacebookのウォールとタイムラインという形で実際に到来した。

ライフストリームの構造は、情報が「デスクトップとして知られている平面的な世界」を越えた、ストリーム(流れ)へと移行していることの表れだ。デスクトップのインターフェースが時間の次元を無視していたのに対し、流れるものであるストリームは時間を具体的に表現することができる。

それは、デスクトップから「魔法の日記」への移行という感じがある。ページが自動的にめくられていく、生活の瞬間瞬間を記録する「魔法の日記」を思い浮かべてほしい。日記に触れるとページめくりが止まる。そしてそれはある種の参考図書に、すなわち完全にして検索可能なあなたの生活ガイドになる。そのあと日 記を置けば、再び自動的にページがめくられていくのだ。

現在、こうした日記のような構造が、空間的な構造に取って代わってサイバー圏の支配的なパラダイムになりつつある。近いうちにインターネットでは、すべての情報が時間ベースの構造になるだろう。ビットの世界において、空間ベースの構造は静的だ。これに対して、時間ベースの構造は動的 で常に流れ、時間それ自体に似ている。

時間ベースの構造がサイバー世界にこんなにもたくさん登場したのは、「最も新しいデータ」へのニーズを満たすためだ。ツイートもタイムラインも、新しいことを告げるべく設計された、時間順のストリームだ。

もちろん、過去を拾い読みしたり検索したりすることはできる。サイバー圏では、時間は進んだり戻ったりする。どんな情報オブジェクトも「いま」に追加することができ、するとそれは小川に落ちた小枝のように、着々と後方へと、過去へと流れ込んでいく。そして、それらの流れをすべてまとめたもの、それが「ワー ルドストリーム」だ。

ワールドストリーム全体を見通せる人は誰もいない。なぜなら、そこを流れる情報の多くはプライヴェートなものだからだ。けれども、誰もがワールドストリームの一部を見ることができる。

「ストリーム・ブラウザー」 


「ストリーム」はウェブ世界を変える

WIREDの原稿のために著者がナプキンに描いたスケッチ。
現在あるようなオペレーティング・システム、ブラウザ、検索はそのうち時代遅れになるだろう。なぜなら人々はもはや、コンピューターやサイトに接続したい と考えているわけではないからだ。人々が本当に欲しているのは、情報に「チューンイン」することだ。われわれの基本的なソフトウェアは「ストリーム・ブラウザー」になるだろう。現在のブラウザーに似ているが、ストリームを足したり惹いたりナヴィゲイトしたりするよう設計さ れている。

現在のような「コンピューター」の意味も変わるだろう。近い将来、コンピューターは大きいものも小さいものも(スマートフォンなど)、カーラジオが放送局 にチューニングをあわせるのと同じように、「常に流れ続ける世界規模のサイバーフロー」にチューンインすることがメインの機能になる。

ウェブは「サイバー圏」になる。ウェブはもはや、無秩序なクモの巣には似ていないものになる。それはすでに始まっている。たくさんの利用者がそれぞれ語る 「自分の物語」が、終わりなく続く物語にシームレスに融合されつつあるのだ。つまり、世界が語る世界自身の物語に。



更新:利用者は、ある情報オブジェクトから次のものへと時間順のシーケンスをフォローし、そうしたストリームがいくつ も流れていく。ひとりひとりの物語は、新しい情報の到来によって常に広がっていく。これが示唆するのは、ヴァーチャル3Dを使った従来とは異なるGUI だ。そこでは、オブジェクトが未来からこちらへと流れてきて、こちらから過去へと去っていく。

実は、そんな未来の第1稿を実際に「作成」してみた。ヴィションを具体化するソフトウェアのプロトタイプだ。

lifestreams.com」で 招待をリクエストしてほしい。ここでは5つのソース(Twitter、Facebook、電子メール、RSS、メモ)からなる「物語のストリーム」を見ることができる。

最終的に、コントロールパネル上のソースは膨大な数になるだろう。人々、組織、ブログ、フォトストリーム、企業などを追跡記録するソースが100個程度だ として、そこから数十億ものストリームが生じることになる。