火曜日, 6月 07, 2016

DS AUTOMOBILES

 

20世紀の伝説のクルマ

「DS AUTOMOBILES」はいかにして甦ったか?

 

2010年に復活を果たしたシトロエンの伝説のモデル「DS」は、2014年、ひとつの新しいブランドとして生まれ変わった。20世紀のカーデザインを牽引したDSの精神を現代に甦らせるというその挑戦に、デザインはいかなる貢献を果たしているのか? 新生DSのエグゼクティヴ・チーフデザイナー、イヴォ・グローエンに訊いた。 




「一目見ても、近づいてよく見ても、DSのすべてにまるで宝石のような美しさを見出だせる」と、DSのエグゼクティヴ・チーフデザイナー、イヴォ・グローエンは言う。

2014年に発表された新生DSを象徴するコンセプトカー「DS DIVINE」。

高さのあるグリル(前部中央の格子状のパーツ)と「ダブルウィング」と呼ばれる左右に2本ずつ伸びるラインが、新たなDSのシンボルである。

広々とした車内空間。DSは華麗であると同時に、居心地がいいクルマである。

内装のデザインやダッシュボードはカスタマイズすることができる。



1955年10月5日、フランスの自動車メーカー・シトロエンが発表したアッパーマーケット向けの乗用車「DS」は、まるで未来から来たクルマのようだった。

「宇宙船」とも呼ばれた先進的なデザインと、航空機の設計技術をクルマに応用するという独自のメカニズム。1975年に生産中止になるまでフランスを代表するモデルとして活躍し続けたDSは、1999年に発表された20世紀で最も影響力のあったクルマのランキング「カー・オブ・ザ・センチュリー」で、フォード・モデルT、ミニに次ぎ、3位に選ばれている。「史上最も優れたカーデザイン」として、いまだにDSの名を挙げる人も多い。


時を経て、2010年、GROUPE PSA(プジョーとシトロエンによってつくられたグループ会社)はDSの魂を現代に甦らせるべく「DS 3」を発表。その後、「DS 4」「DS 5」といったサイズの異なる新DSシリーズがつくられ、2014年にはDSは母体となるシトロエンブランドから独立することになった。


「1955年の初代DSは、ほかとは異なるコンセプトをもった、異なる次元のクルマでした。技術も内装も外装も、すべての点においてアヴァンギャルド(前衛的)なデザインだったのです」。2010年にDSが生まれ変わってから同ブランドのエグゼクティヴ・チーフデザイナーを務めるイヴォ・グローエンは言う。「昨年60周年を迎えたDSの『アヴァンギャルド精神』を引き継いで、これからも新たなDSをつくっていくのが楽しみです」




IVO GROEN|イヴォ・グローエン
DSエグゼクティヴ・チーフデザイナー。オランダ・アムステルダム生まれ。幼少のころからクルマに魅了され、13歳で渡米しカーデザインを学ぶ。21歳でArt Center College of Designを卒業し、シトロエンに入社。2010年に生まれた新生DSのデザインを統括する。

 

ラグジュアリー・オブ・パリ

2014年にDSがシトロエンブランドから独立したのは、60年という長い歴史をもつDSには十分な認知度があること、そして小型車2CVに代表される「大衆のためのクルマ」というイメージの強いシトロエンから、1955年当初から「ラグジュアリー」を体現してきたDSを分けたかったからだと、プジョー・シトロエン・ジャポンでDSのマーケティングを担当するルカ・フェネックは言う。「DSが表すのはただのラグジュアリーではありません。“パリのラグジュアリー”なのです」

そんなパリのラグジュアリーをアヴァンギャルドに表現するための意匠が、新生DSには詰め込まれている。

いちばんの特徴は、クルマの顔となる正面部分。力強さを感じさせる高さのあるグリル(前部中央の格子状のパーツ)と「ダブルウィング」と呼ばれる左右に2本ずつ伸びるラインが、新たなDSのシンボルだ。外装・内装に使われる素材や色も、その模様も肌触りも、すべてがラグジュアリーという価値観を中心にデザインされているとグローエンは言う。「一目見ても、近づいてよく見ても、DSのすべてにまるで宝石のような美しさを見出だせるはずです」

彼らが目指すのは、華麗であると同時に、居心地がいいクルマである。インタヴューの最中、グローエンは何度も「ウェルビーイング」や「コンフォート」といった言葉を口にする。そうした価値観から生まれたのは、内装のデザインやダッシュボードを個々のドライヴァーにカスタマイズすることが可能な、広々と、ゆったりとした車内空間だ。「まるで家にいるみたいにくつろげます」と、彼は言う。

 

DSが代表するアヴァンギャルド的なカーデザイン

2010年の第26回国際自動車フェスティヴァルでも「最も美しいクルマ」に選ばれた新生DS 4の評価は上々だが、果たしてそのデザインは、どのようなインスピレーションから生まれているのだろうか。「自然にも、ファッションにも、建築にも、ダイヤの原石となるインスピレーションはどこにでもあります」とグローエンは言う。

 

シトロエンの「プレミアム」なコンセプトモデル「Divine DS」(2015.09.14)





シトロエンのプレミアム・サブブランド「DS」のコンセプトカー「Divine(ディヴィーヌ) DS」は、可能なかぎりの贅を尽くしたデザインだ。
ダイヤモンド模様のグリル、モジュール式テールランプ、独特なルーフと、(もちろん)ウイング式ドアなどは流麗でモダンな見た目はもちろん、内装はフルカスタマイズ可能で、10.4インチのタッチスクリーン・インターフェイスを搭載している。




革張りのシートは、同社を象徴する、腕時計のベルトのような「ウォッチ・ストラップ」デザインで、スワロフスキーのクリスタルが散りばめられている。

Divine DSは、2014年10月の「パリ・モーターショー」で公開されたあと、英国では、2015年6月の「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で披露された。

幸運なことに、このたびロンドンのハイドパークに持ち込まれたDivine DSについて、テスト走行と内装の独占取材の機会を得た。

動画リポートでは、プロダクトエディターのジェレミー・ホワイトがクルマに関する感想を述べている。「フランスの自動車業界に息づくプレミアカーの伝統を再構築する」というDSの野望が窺えるクルマだ。






2015年に発表した『DS4 クロスバック』と呼ばれるDS4のSUVモデルでは、パリのオートクチュールで用いられるようなハンドステッチの技術によって、車内のシートを1つひとつ手でつくっています[編注:ハンドステッチは日本ではまだ販売されていないオプション]。


2015年に発表された、DS4のSUVモデル「DS4 クロスバック」。

DS4 クロスバックでは、パリのオートクチュールで用いられるようなハンドステッチの技術によって、車内のシートが1つひとつ手でつくられている。

エンジニアリング的な発想だけでなく、フランスの伝統工業やファッションのアプローチをカーデザインに取り入れているのが、われわれのクルマがほかと異なる理由です。DSには『アヴァンギャルドの精神』というブランドスローガンがありますから」。

革や宝石の職人、ファッションデザイナーや飛行機のエンジニアといった多様なバックグラウンドをもつメンバーからなるチームが、そうした“伝統工芸とカーデザインの邂逅”を可能にしているという。


「ラグジュアリーブランドをつくるというのは、一朝一夕でできることではありません」とグローエンは語る。

「最近では、E-TenseというDSブランドの電気自動車のコンセプトをつくりました。そうした新しいクルマのすべてにDSのDNAを取り入れ、伝統とラグジュアリーを併せもつ一貫性のあるシリーズをつくることが、われわれの最大のチャレンジです。変わりゆく環境のなかで、新たなテクノロジーを使いながら自分たちの伝統やルーツ、ヴィジョンを追い求められるいまこそが、デザイナーにとっては本当にわくわくする時代なのです。


DSブランドの電気自動車「E-Tense」。




DS AUTOMOBILES


PHOTOGRAPHS COURTESY OF GROUPE PSA
TEXT BY WIRED.jp_U