金曜日, 12月 05, 2014

「ネット広告は、もう死んでいる」


「ネット広告のアドテクは、もう死んでいる」

行き詰まる、ネット広告の自動取引



渡辺健太郎(わたなべ・けんたろう)●マイクロアド社長。1974年宮城県生まれ。東邦大学理学部卒業、1999年サイバーエージェント入社。2007年マイクロアド設立、同年から現職。
アドテクノロジー、略して「アドテク」。その中身を正確に理解している人は少ないかもしれないが、ネットを利用しているユーザーなら、誰もがそれと深くかかわっている。ネットの閲覧に伴って表示される広告の裏側には、アドテクがあるからだ。
代表例はRTB(リアルタイム入札)と呼ばれる仕組みだ。ネットの広告が表示される(インプレッションの)たびに、閲覧しているユーザー、広告が掲載される場所などさまざまな情報を分析したうえで、最適と判断できる場合に入札(オークション)方式で自動的に売買がなされる。広告主にとって高い効果が期待できるとされ、関連市場は急速に伸び、今年はフリークアウトやVOYAGE GROUPといったアドテク関連企業が上場を果たした。
ところが、アドテクの分野で代表的な企業で、サイバーエージェント子会社であるマイクロアドの渡辺健太郎社長は、「今までのアドテクは死んでいる」と言う。12月3日には「TSUTAYA」や「Tポイント」で知られるカルチュア・コンビニエンス・ クラブ(CCC)グループと提携。実店舗での購買情報をマイクロアドがネットの広告配信に活用する。渡辺社長の言う「アドテクの死」と結び付く話なのか。その真意は。

アドテクの中身は進化していない

――マイクロアドは、「2013年に前年比2.5倍の392億円まで拡大したRTB経由の広告市場が、2017年には1000億円まで成長する」と予測しています。それなのに今、「アドテクが死んでいる」とはどういうことでしょうか。
RTBが生まれる前はいわゆる手売りと言って、人の手を介して売買されていたネット広告がコンピュータによって買い付けられるようになりました。しかも1インプレッション(1回の広告表示)ごとにです。
マイクロアドがその関連サービスを始めたのは2011年で、市場として本格的に立ち上がったのは2012年。その後、プレーヤーがどんどん参入し、アドテクが注目されるようになりましたが、中身はそれほど進化していません。
RTBで自動買い付けしていく中で、ビジネスとして広告効果が出やすいのはリターゲティングです。リターゲティング広告とは、ユーザーがネットの中で、閲覧した関連した情報を文字どおり「追いかけて」広告を出す仕組みで、この分野はマイクロアドが切り開いてきたという自負があります。約6500万人の1日100億件を超えるユーザー行動データを駆使して、広告配信の最適化を追求してきました。
ただ、アドテク関連企業はリターゲティングばかり追いかけている。ブームに乗ってプレーヤーは増えましたが、新しい流れが出てきていません。このままだと飽和して行き詰まってしまいます。
――なぜ?
リターゲティングは、あくまで過去の行動履歴のみをベースにするので、実はごく一部の情報を活用しているにすぎません。マーケティングの観点でいえば、ネットで何らかの情報を探しているというのは購買行動の最終局面にある訳です。確かに一定の効果が見込めますが、広告在庫に対して1割ぐらいしかカバーできません。

人間はネットの中だけで生きていない

――リターゲティング以外のアドテク手法はないのでしょうか。
リターゲティングだけに頼っていては、いずれ行き詰まるのは最初からわかっていました。そのため、マイクロアドは行動履歴からそのユーザーを追い掛けるのではなくて、ネットの中で似たような属性の人を探して、その人に最適と思われる広告を表示する「オーディエンスターゲティング」に取り組んできました。
ところが、まだ満足するところまで育っていません。というのも、人間はネットの中だけでは生きていないということです。ネットの履歴だけでは、1人の人間が普段はどういう行動をしているのかが、実際のところはわからない。たとえば、ネットで車のサイトや旅行のサイトを見ていたからといって、ユーザーが車を買いたいとか旅行に行きたいという明確な目的があっての行動なのかどうかがわからない。ただ単に見ているだけかもしれませんから。
同じ自動車に興味を持っている人であっても、軽自動車と超高級車ではまるで客層が違う。それをリターゲティングだけで追いかけていって、それで広告の効果を高められる、と説明しても、それは無理があります。
――CCCグループとの提携でそこを打破できる?
オーディエンスターゲティングに取り組んできたことで、購買パターンが似ている人を探してくる技術は磨いてきました。しかし、その元になっている情報が正確でなければパフォーマンスは出ません。
データの精度をあげるために取り組み始めたのが、CCCのデータ活用です。5111万人の利用会員データベースがあるCCCグループの強みは、実店舗における膨大な購買データを持っていることです。これをうまく活用すれば、より効果的な広告配信をできるはずです。購買から推計した志向性データやライフスタイルデータなどを活用すると、ネット上の行動データだけではできなかったカテゴリをつくって、広告配信ができるようになると考えています。これは、あまり前例のない取り組みですが、行き詰まったアドテクを前進させるキッカケになるのではないかと思っています。