金曜日, 11月 13, 2015

「リンゴのかけら」|INTERVIEW Nolan Bushnell

 

「天才の片鱗なし」 師匠が見た、若き日のジョブズ

 

スティーブは大学中退後、エンジニアとして働いていた時期がある。若き日の天才は、起業家の目にどう映ったのか。

 

スティーブは大学中退後、エンジニアとして働いていた時期がある。若き日の天才は、起業家の目にどう映ったのか。

 

世界を変えた天才にも、若かりし頃、メンター(師)がいた。
1974年、ジョブズを「40人目の社員」として雇った米ビデオゲームメーカー、アタリの共同創業者、ノーラン・ブッシュネルだ。米ビデオゲーム業界の生みの親の一人として知られる起業家の同氏が、ジョブズの素顔を語る。


 

―あなたが考える優れた起業家の定義とは何ですか。


ノーラン・ブッシュネル(以下、ブッシュネル):
最も重要な特質は、情熱を持てるかどうかだ。人生、そしてプロジェクトへの情熱だ。会社を興すと、何もかも自分でやらねばならなくなる。起業は、ひと筋縄ではいかない。情熱がなければ、続かない。起業より、もっと楽な仕事があるからだ。
 
スティーブはアタリで約3年間働いたが、並外れた情熱の持ち主で、いつも全力疾走だった。起業家になるには、長時間労働をいとわず、一生懸命働かねばならないが、まさに彼がそうだった。出社時、会社に泊まり込んで机の下で寝ているスティーブを見るたびに感心したものだ。彼は、私のことをメンター(師)だと言ってくれた。
 
創造性のある人は好奇心が強いものだが、スティーブも、いろいろなことに好奇心を持っていた。たとえば、彼と繰り返し議論したのが哲学だ。私は欧州の哲学者について、スティーブは仏教や儒教、神道について、熱く語り合ったことを思い出す。


―将来、ジョブズが世界を変えるような起業家になると思いましたか。


ブッシュネル:
いや、当時は思わなかった。すごく有能だったが、粗野というか、あまりにも洗練されていなかった。だから、スティーブが(スティーブ・ウォズニアックと)アップルを立ち上げたとき、投資家第1号になってくれと頼まれたのだが、断ったんだ。あの時、イエスと言っていれば、アップルの全株式の3分の1を5万ドルで保有できたのに。今にして思えば、とんでもない失敗をしてしまった(笑)。
 
とはいえ、スティーブにとっては、ある意味で、それが功を奏したと思う。
(エンジェル投資家の)マイク・マークラが最初にアップルに投資したのだが、彼はずっとスティーブのそばにいて、幹部にふさわしい資質などをスティーブが身に付けられるよう導いたのだから。(注:マークラ氏は、アップルの2人目のCEO)


―当時のジョブズには天才の片鱗は見られなかったということですか。


ブッシュネル:
さほど感じなかった。型破りの社員で、卓越した審美眼を持っていたがね。アタリでの(電子部品を接続・配線する)ハンダ付けのやり方が悪いと言って、「僕に講義させてくれ」と言ってきたこともある。細部にまでこだわる人だった。


―「他人の一歩先を行くにはどうしたらいいか」というジョブズの質問に、あなたは、「未来の自分を想像せよ」と答えたそうですね。


ブッシュネル:
そうだ。彼は、将来、コンピュータは「シンプル」であるべきという信念を持っていた。「使いやすさ」が、スティーブのモットーだった。スティーブが偉大な起業家になったのも、この見解が的確だったからだ。

適切なタイミングで的確な考えを示せれば、天才と言われる。結果的に、コンピュータにしろスマートフォンにしろ、スティーブの信念が正解であることがわかったわけだ。


―ジョブズは「自分は常に正しいと信じていた」そうですね。


ブッシュネル:
自分を信じることは、イノベーションのカギだ。イノベーターであることの大変さの一つは、正しいことをしていても周りが信じてくれないことだ。こと先鋭的なイノベーションとなると、民主主義は機能しない。未来を見通せない仲間や同僚のなかにあって、起業家は自分を信じ、人と違うことを良しとしなければならない。スティーブは、いつもそうだった。


―ネクストとピクサーでの失敗を乗り越え、成功できたのはなぜだと思われますか。


ブッシュネル:
はっきり言っておきたいが、ネクストのコンピュータは逸品だった。優れたイノベーションが数多く詰め込まれていた。

ただ、新型コンピュータを売り出すには時期が悪かった。アップルがネクストを買い、ネクストのソフトウェアが次世代基本ソフト(OS)のコードになったことを考えても、ネクストは時代の先を読んでいた。


―あなたにとって、ジョブズとは。


ブッシュネル:
情熱の人。そして、未来を予見することができる人だ。将棋でも囲碁でもそうだが、先を読む能力は、優秀なゲームプレイヤーに共通する特徴だ。拙著『ぼくがジョブズに教えたこと 』の原題は『Finding the Next Steve Jobs (次なるスティーブ・ジョブズを探せ)』だが、そう簡単には見つからない。
 





ノーラン・ブッシュネル
 「ビデオゲームの父」として世界的に讃えられている起業家・経営者・エンジニア。1972年、ゲーム会社、アタリを設立し、ゲーム産業を牽引。屈指の「連続起業家」としても知られ、近年も脳科学に基づく教育ベンチャー「ブレインラッシュ」を立ち上げるなど活躍中。米西海岸在住。






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