火曜日, 10月 20, 2015

AppleはWebビュー排除へと突き進むのか

「広告ブロック」よりも恐ろしい? AppleはWebビュー排除へと突き進むのか


2015年9月25日にアップルの「iPhone 6s」「iPhone 6s Plus」が発売された(写真1)。初速は上々のようだ(関連記事:iPhone 6s/6s Plusの販売台数、最初の3日間で1300万台突破、記録更新)。業界内では、Appleのビジネスを支えるだけの満足いく台数を販売できそうだという楽観的な見通しが強い。


ユーザーのiPhoneに対する高いロイヤルティーを背景にして、2年以上利用した既存のユーザーを確実に買い換えさせることができれば、前年を上回っ て台数が積み上がっていく。米国では1年ごとにiPhoneを買い換えやすくする「iPhone Upgrade Program」を導入し、買い換えサイクルの短縮をもくろんでいる。

ライバルのAndroidユーザー向けには、データ移行アプリを提供し、ユーザーを“引き抜く”施策も強化している。

AndroidからiPhoneへの移行促進も

「iOS 9」は先行して9月16日にリリースされたが、3日間で早くもiOSユーザーの50%がアップデートするなど、こちらも反応が良いようだ。しかし、このiOS 9に搭載されている機能を巡って、Web業界に波紋が広がった。

それは、iOS 9の標準Webブラウザー「Safari」において、「広告を非表示にできる」機能だ。

「コンテンツブロック」機能を搭載

正確に書くと、AppleはiOS 9のSafariに広告をブロックする機能を導入したわけではない。広告ブロックにも利用できる、「コンテンツブロック」機能が利用できるようになったということだ。

それでもやはり、コンテンツブロック機能を利用して広告ブロックするアプリに注目が集まり、App Storeではたくさんのアプリがリリースされている。ランキング上位にあるのは有料アプリの「Crystal」や「Peace」。これらを導入すると、 バナーやテキストなどの広告が表示されなくなる。

CrystalのWebサイトでは、Webの読み込み速度向上、モバイルデータ通信量の節約、バッテリー持続時間の向上、マルチタスクの快適性、プライバシー確保などをメリットとして挙げている。あえて「ユーザー体験の向上」の面を意識的に紹介しているようだ。

人気広告ブロックアプリ「Crystal」のWebサイト

 

「広告ブロックは戦争だ」

これはやや一面的かもしれない。というのも、ユーザーが楽しむコンテンツの多くは、広告からの収入によって運営されているからだ。Crystalを使え ば、一時的にはユーザー体験向上につながるだろうが、中期的に見れば広告というコンテンツ提供者の収入源を消し去ることになる。コンテンツそのものも消え 失せてしまう可能性をはらんでいる。

公開2日で有料アプリのトップに躍り出た著名広告ブロックアプリのPeaceは、作者が「気分が良くない」としてアプリを取り下げることを決め、ダウンロードできなくなった。

Appleの特例的な計らいで、アプリを購入したユーザーには自動的に返金されるという。

作者のMarco Arment氏は自身のWebサイトで、「広告ブロックは戦争だ」とし、「お互いにダメージが及ぶ」ことから「できることなら避けるべき」と書いている


Appleの本音はどこに?

メディアやコンテンツのビジネスモデルに直結する広告ブロックの話は、米国だけでなく日本も含めて、今後さらに議論が広がっていくだろう。すぐに結論が出るわけではないが、まずはこうした仕掛けをしたAppleの意図を見極める必要がある。

今回の広告ブロックの構図には既視感もある。以前本連載でも触れたが、AppleがiOSデバイスでFlashを締め出し続けることを決めたときに見えた本音がそれに当たる 
(関連記事:Flashの脆弱性問題で再燃するジョブズ氏の「Thoughts on Flash」)。 

当時Flash締め出しについて、セキュリティや動作速度、バッテリー消費などの点で満足がいかないという、ユーザー体験を核とした理由が述べられてい た。この理屈は、その後PCのWebブラウザーにも広がっている。OS XのSafariには「省電力機能」があり、Flash広告をクリックするまで再生しない。FirefoxやChromeもFlashコンテンツについて 同様の対応を始めつつある。

しかし、Flashを排除する本音での目的は、「Appleが提供するApp Storeを経由したアプリだけが販売される世界を作りたかった」ということだろう。

Newsアプリに見るコンテンツ収益化

アプリを収益源として確保することと同じ構造を見出すとすれば、今度はWebコンテンツを収益源として確保できるようにしたい、ということだろうか。ちょうどAppleは、米国・英国・豪州といった英語圏で、「News」アプリの提供を始めている。

Appleが導入した独自のフォーマットを用いて、モバイルデバイスに最適化された記事を閲覧できる。美しい表示と高い表現力を体験できるようにすることを目的としているのだが、そこにバナー広告の姿はない。

Newsアプリでは、Appleが販売する広告「iAd」を導入することもでき、その利益は折半となる。現在はまだ用意されていないが、月間購読や複数 のメディアを束ねたバンドルなどが導入されると、メディアにとっては広告ではなく読者から直接収益を上げるビジネスモデルへと移行する選択肢が見えてくる。

「ピーク&ポップ」の邪魔になる広告

実際にiPhone 6s Plusを使う中で、広告を排除する動きについて、ユーザー体験の視点で共感できる部分があった。従来機とiPhone 6s/6s Plusを比較した場合の大きな違いの一つが、圧力を感知できる「3D Touch」機能だ。この操作方法に「ピーク&ポップ」がある。

SafariでのWebサイト閲覧を例に取って、広告ブロックの話とこの新しいインタフェースの関係を見る。SafariでWebページを見ている際、 リンクを押し込むと、ポップアップメニューのような吹き出しが開き、その中でリンク先のページが読み込まれる。自分が読みたい内容かどうかを、リンク先に 飛ぶ前に確認できるわけだ。

もし読みたければ、さらにぐっと押し込めば、リンクをタップしたのと同様のページ遷移が起きる。もし興味がなかったら、指を離せば吹き出しは消え、元の 画面に戻ることができる。ここで重要なのは、リンク先をタップして興味がなかったから戻る場合と比べ、画面遷移が2回減っている点だ。

3D Touchの新機能への無力感

便利そうに思われる機能だが、広告やメニューなどの配置を徹底的に最適化した最近のWebサイトでは、このピークが案外役に立たない。こうしたサイトで は、タイトルのすぐ下にバナー広告が配置されている。多数のソーシャル共有アイコンも並ぶ。その後に本文が始まるが、本文領域の冒頭部分にも、右寄せされ た広告ボックスが入ってくる。

こうした、「収益化」に向けたデザインが徹底されているWebサイトで、リンクを押し込んでピークを表示させても、あまり役に立たない。ピークにはサイ ト名のロゴと広告バナー、大きなタイトル文字、ソーシャル共有アイコンしか表示されず、その記事を読みたいかどうかの判断はつかない。

3D Touchが使える場面は他にもたくさんあるだろうが、筆者はSafariでのWeb閲覧はピーク&ポップが最も活躍するはずの場面だと考えていた。それだけに、使ってみての「無力感」は大きかった。

確かにiPhone 6sを使うなら、Safariに広告ブロックアプリを入れたくもなる。Newsアプリやコンテンツにフォーカスした表示が得られるニュースリーダーを使いたくもなる。


AppleもWeb発展の経緯に配慮?

だが今後もAppleは、露骨に広告を排除しようという動きはしないだろうと見る。今回のiOS 9のSafariにしても、広告ブロックは可能だが、初期設定で広告ブロックが有効になるわけではない。メディア・広告主側にもそれなりの配慮がなされている。

広告ブロックに使われたPeaceアプリを取り下げたArment氏が言う、「戦争」を「可能であれば避けるべき」という意見には、筆者も同意する。今まで作り上げられてきたルールの中で、お互いに発展してきた経緯を尊重すべきだとも思う。

Appleにもその気持ちがあるようだ。もしAppleが露骨にiPhoneから広告を排除しようとするならば、初期設定で広告ブロックを有効にするこ ともできた。それに対して、メディア側は「iPhoneからは一切のコンテンツが見られないようにする」といった対抗措置を取るかもしれない。互いに対抗 措置を講じ合うような「戦争」のような状況は、やはり「可能であれば避けるべき」というほかない。

Apple TVのアプリから既に取り除かれたものとは

ただ、「今まで作り上げられてきたルール」がない場合はどうだろう。「Apple TV」がそれに当たる。ここで、Appleの意志が強いことを思い知らされる。

Apple TVは2015年10月に発売する新モデルで、iOSをベースとした「tvOS」を導入し、テレビ向けのApp Storeを開設する。CEOのTim Cook氏は9月9日のイベントで「テレビの未来はアプリだ」と述べた。しかしテレビの未来には、Webという言葉は含まれていなかったことが、話題に なっている(参考記事)。

tvOS向けのアプリで今後、問題になりそうな点は、Web上のコンテンツをそのまま表示する機能(Webview)が排除されたことだ。Apple TVのアプリ内でWebページを表示することは難しくなる。

確かに、タッチもできないテレビの画面でWebページが使いやすいかと言われると、ユーザー体験面では排除の理由について説明がつく。だが同時に、Web的な手法で広告を貼り付けて無料アプリの収益化を行うこともできない。

「テレビ向けにきちんとデザインせよ」というのがAppleの方針なのだろうか。「テレビの画面にWeb広告はふさわしくない。きちんとデザインできないのならば、AppleがiAdをお入れしますよ」という流れまで想像してしまう。

デバイスに最適化されたユーザー体験に徹する姿勢と、その背後にちらつくApp StoreやiAd、コンテンツ購読の手数料を狙うビジネス拡大。その動向を今後も注視する必要がある。




関連記事

広告ブロック機能は「お湯と一緒に赤ん坊を流してしまう機能」|Google幹部

iOS 9 広告遮断機能搭載?!

「iAd」は意外と穴場!アプリ広告の出稿方法と効果とは