水曜日, 10月 15, 2014

Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー


Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー

10年ぶりのスーパー ポルシェ

試乗、ポルシェ 918 スパイダー

2010年の発表いらいすこしずつその姿を垣間見せ、2013年のジュネーブモーターショーでついにお披露目を果たした、ポルシェ「918 スパイダー」。前作「カレラGT」からきっちり10年を経て登場した、スーパーハイブリッド スポーツだ。もちろん、ただ速いだけではなく、ブランドの頂点モデルとして、今後のポルシェにおける方向性を表現した、走るテクノロジーショーケースでもあり、興味は尽きない。自身もポルシェ オーナーである河村康彦氏が、そんな特別なポルシェに触れ、乗った。

伝説的レーシングマシンと最新レースウェポンのあいだにはさまれた実力

われわれは、およそ10年ごとにスーパースポーツ モデルを世に送り出してきた──開発陣のそんな声とともに、2003年デビューの「カレラGT」いらいまさに10年ぶりというタイミングでリリースされたスーパー ポルシェが、限定918台のみが生産をされる「918スパイダー」だ。
その車名や、生産台数の由来となった(そして、生産の開始までもが2013年の9月18日!)『918』という数字はもちろん、1970年のル・マン24時間レースで総合優勝を獲得するなど、ポルシェの伝説的レーシングマシンとして知られる往年の『917』にたいするオマージュから決定されたもの。
Porsche 917 KH Coupe(1971)

Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー 07
Porsche 918 Spyder
ちなみに、今年2014年のル・マン24時間レースの最高峰クラスに復活参戦するマシンとしてジュネーブ モーターショーで披露をされたモデルの名称は、『919ハイブリッド』と発表されている。

かくして、ポルシェ社のレーシング スピリットがタップリ注ぎ込まれた918スパイダーのアピアランスやそこに採用されたテクノロジーは、そのいずれもがいかにも“技術者集団”が手掛けたことをほうふつとさせるコンペティティブなもの。

このモデルそのものによるレース活動の予定は発表されていないが、その過酷さで知られるニュルブルクリンクの旧コースでの最速ラップが6分57秒をマーク! と報じられることからも、その速さがまさに「レーシングマシンの水準」であることはまちがいないのだ。

最高出力887ps、0-100km/h加速2.6秒でも、リッター30km超の燃費

4,643mmという全長にたいして全幅は1,940mm。いっぽう、その全高はわずかに1,167mmに過ぎないという文字通りの“ワイド&ロー”なプロポーションを特徴とする脱着ルーフ付き2シーターの918スパイダーのボディは、CFRP(カーボンファイバー強化プラスチック)製モノコックシェルと、おなじくCFRP製ユニットキャリアによるコンビネーション構造を採用。

パラレル式ハイブリッドシステムと組み合わされた、「RSスパイダー」用をベースとするミッドシップ マウントの4.6リッターV8エンジンからの排気が上方に向かって放たれるのは、たんにデザイン的な要素に留まらず「エンジンルーム内の冷却性に優れ、背圧低減にも寄与するとともに、リアタイヤの温度上昇を抑制することでサーキット連続走行時のラップタイム低下を緩和する」などと、数かずの実利的メリットが謳われてもいる。

Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー 24
いかにも“いまの時代のスーパースポーツカー”を印象づけるハイブリッドシステムは、低重心化や前後重量配分の適性化を意識してシート後方のモノコックフロアに横置き搭載された、6.8kWh容量をそなえるプラグイン充電対応のリチウムイオンバッテリーが発する最高230kWの出力を、クラッチを介してエンジン後方に締結される最高出力115kWのモーター付き7段DCTという後輪駆動用のユニットと、それとは機械的な結合を持たずに独立してフロントにレイアウトされた最高出力95kWのモーターによる前輪駆動用ユニットへと伝達。8,700rpmと、いかにもレーシングユニットを起源とすることをしめす高い回転数で発せられる608psの最高出力を放つエンジンと組み合わされた結果の“システムトータル出力”は、じつに887ps/8,500rpmと発表されている。
そんな心臓が発する怒涛のパワーを、前述のハイブリッド4WDシステムによって4輪に効率良く分散することで、わずかに2.6秒という驚異的な0-100km/h発進加速タイムと、最高345km/hという最高速を達成。

いっぽうで、エンジン動力ナシでも16-31kmの距離をEV走行可能で、NEDC(新欧州ドライビングサイクル)計測法で3.0-3.1ℓ/100km(およそ33.3-32.3km/ℓ)という燃費も両立させるという点こそが、まさに「現代のスーパースポーツカーとしての最たる見どころ」と紹介しても過言ではないはずだ。
Porsche 918 Spyder Weissach Package
ちなみに、標準仕様車でもちいられるアルミニウム製コンポーネンツの多くを無塗装カーボン製へと置き換え、遮音材の省略や超軽量マグネシウムホイールの採用などによって40kgの軽量化を果たすとともに、一部に専用のエアロパーツを採用しながら伝説の“ポルシェ レーシングカラー”を纏うことでひと目で識別が可能な『ヴァイザッハパッケージ』仕様では、0-200km/h加速で0.1秒、0-300km/h加速では1.0秒を短縮するさらに強力な動力性能がアピールされる。

ニュルブルクリンク旧コースのラップタイムを3秒短縮し、前述のように7分切りの成績をアピールするのも、「全台数中の約1/4がこちらで生産される」というヴァイザッハパッケージ仕様車だ。


カーボン表面に初めてほどこされたペイントも特別

スペイン東部に位置する一周4km強のバレンシア サーキットを舞台に開催された国際試乗会で当方に割り当てられたのは、前出2タイプのモデルのうちの標準仕様車だった。

深くて淡いシルバーのボディ色がうつくしい……と、まずは実車を目前にそうかんじたものの、じつはそれもそのはず。

“リキッド メタル シルバー”と呼ばれるその特別色は、3回の手作業での塗装の上に2つのクリア層を形成するなど複雑な過程を経て、合計で9つの塗膜層から構成される「開発に2年を要したペイント」だというからだ。カーボン素材の表面に塗装をほどこせるようになったのは、「これが初めてのこと」であるという。

いかにもホールド性の高そうなバケットデザインのドライバーズシートへと身を委ねると、ダッシュボードのドアサイドに設けられたキーシリンダーや丸型の三連メーター、前方でせり上がるセンターコンソールなど、いかにもポルシェ車らしい“アイコン”がいくつも目にはいる。
高いカウルポイントのため振り向き後方視界は絶望的ないっぽうで、前方や左右方向への視界の広がりは事前の予想をはるかに上まわった。ウインドシールド越し左右に“フェンダーの峰”が目に入るのもポルシェ車らしい特徴。ダッシュボード端のライトスイッチや、ドアトリムに設けられたパワーウインドウスイッチが量販モデルと同様デザインなのは、開発陣が語る「このモデルに採用されたテクノロジーは、今後の量販モデルへと展開されてゆく」というフレーズに説得性をもたらす。

いっぽう、フロントリッド下に用意をされるラゲッジスペースは必要にして最小限。VDA計測法による110リットルというそのボリュームは「911カレラ4と同等を目指した結果」というものだが、付属される専用アタッチメントをもちいてルーフトップの外したパネルを収納すると、もうそれだけでいっぱいという状況だ。


動力性能のフィーリングはまさに「レーシングマシンそのもの」

あたらしいデザインのステアリング ホイール上のマップスイッチで『Eパワー』のモードを選択し、まずはEV走行優先の状態でピットレーンを後にする。

それ以上踏み込むとエンジンが始動する、というクリック感のあるポイントまでアクセルペダルを踏み込むと、918スパイダーは想像以上の勢いで加速をはじめる。じつは、このモデルはエンジンパワー無しでも0-100km/h加速を約7秒でクリアし、その状態での最高速も150km/hに達するという“速いEVとしての実力”も兼ねそなえるのだ。

すなわち、プリウスをはじめとするこれまでのハイブリッドモデルのように、「モーターだけではゆるゆるとしか加速が効かない」という印象とは、このモデルのEV走行はまったく次元がことなるということ。それにしても、“こうしたカタチ”のモデルがエンジン音もなくスルスルと加速してゆくのは、何とも言えない違和感であると同時に、これまで受けたことのない未来感もほうふつさせるのは確かだ。

Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー 06
そんなEパワーモードから『ハイブリッド』モードを選択すると、アクセルペダルからは前述したクリック感が姿を消し、必要に応じて即座にエンジンが始動して背後で“爆音”が耳に届くと同時に、強力な加速力が上乗せされる。

さらに『スポーツハイブリッド』モードを選択するとアクセルOFF時のコースティング機能や停車時のアイドリングストップ機能が停止され、エンジンは常時運転状態に。トランスミッションもつねに高いエンジン回転数をキープすべく低めのギアを選ぶようにセッティングが改められ、スーパースポーツカーとしての本領がいよいよ顔を覗かせはじめる。
そして『レースハイブリッド』のモードを選択すると、トランスミッションはさらに加速力重視のプログラムへと変更されて、エンジンはより高い回転数を保つ。圧倒的な加速力にくわえ車速とエンジン回転数がきれいにリンクすることもあり、その動力性能のフィーリングはまさに「レーシングマシンそのもの」だ。

ちなみに、このモードでは必要とされる駆動力を差し引いたエンジンの余力がバッテリー充電のためにもちいられ、「完全に放電したバッテリーを20分以内でフル充電させるポテンシャルがある」とも説明される。
このモード選択中にマップスイッチ中央のボタンを押すことで「駆動用バッテリー内の使用可能な全エネルギーを集中的にもちいる」という“ホットラップ”の機能も使用が可能。ただし、ためしにとそれを押してみても、限られたテストドライブの時間内ではおおきな差は見出せなかったというのが率直なところ。すなわち、レースハイブリッドモードでも、フル加速する先導の911ターボSに簡単に追いすがることができるほどの“怒涛の加速力”が得られるゆえに、その効用のほどを享受するにはいたらなかったのだ。


圧巻だった高速コーナリング

いっぽう、フロント=ダブルウィッシュボーン式、リア=マルチリンク式のサスペンションを採用のうえで電子制御式可変減衰力ダンパーが奢られ、さらにリアには最新の「911 GT3」が先鞭をつけたアクティブ ステアリングシステムまでもがもちいられた結果のフットワークの仕上がりにも、まさに「コンペティションモデルに匹敵する高いポテンシャル」を実感させられることになった。

電動式パワーステアリングはあくまで正確無比で、路面とのコンタクト感を見事に濃密にステアリングへと伝えてくれる。ストレートでは250km/h近いスピードまでを試せたなかで「直進性もすこぶる高いな」と実感できた秘密のひとつには、グランドエフェクト効果をコントロールするフロントアクスル手前のアンダーフロアに設けられた2個のエアフラップと、高さと角度をコントロールする可変ディバイスが与えられたリアウイングが協調制御される“アダプティブ エアロダイナミクス”の効果ももちろん含まれているはずだ。

Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー 03
さらに圧巻だったのは高速コーナリングのシーン。

前述の空力ディバイスによってボディが路面へと押さえつけられた上で、フロントが265/35の20インチ、リアが325/30の21インチという専用開発されたミシュランのハイパフォーマンスタイヤ「パイロット スポーツカップ2」が生み出す高いグリップ力には、おもわず“身体がついていかない”ほど。

こうしたシーンでは、さすがにプロのインストラクターが駆る911ターボSに追いすがるのは容易ではなかったが、見方を変えればまだコースレイアウトも把握できない初めてのコースを、曲りなりにもレーシングスピードで走行できたという点に、このモデルがそなえる恐ろしいほど高い走りのポテンシャルの片鱗を見ることができたというのも、また確かであったわけだ。

冒頭述べたように生産台数が限定され、随所に最新のハイテクノロジーが散りばめられたうえで、ユーロ建てのみで表示される価格を単純に円換算すれば、それは9,500万円以上(!)ということになるこのモデルにたいしては、「たんなるテクノロジー ショーケースであり、ポルシェ社のプロモーション活動のひとつに過ぎない」という見方もあるかも知れない。

が、開発陣はこのモデルは「未来に向けたDNAの青写真」であり、「たんなるアリバイではないハイブリッドモデル」と表現する。

昨今のポルシェがもちいるキーワードは『インテリジェント パフォーマンス』なるもの。918スパイダーは、「より少ない燃料でより高い効率とより低いCO2排出量」の実現を意味するこのフレーズの下で開発をされた最新各ラインナップたちの、もっとも頂点に位置する存在でもあるというわけなのだ。

Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー 28
Spec|スペック
Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー
ボディサイズ|全長 4,643 × 全幅 1,940 × 全高 1,167 mm
ホイールベース|2,730 mm
トレッド 前/後|1,664 / 1,612 mm
重量(DIN)|1,634 kg
エンジン|4,593cc V型8気筒 DOHC
最高出力| 447 kW(608 ps)/ 8,700 rpm
モーター出力|210 kW(286 ps)/6,500 rpm
システム最高出力|652 kW(887 ps)/8,500 rpm
システム最大トルク|917-1,1280 Nm
トランスミッション|7段オートマチック(7PDK)
ギア比|1速 3.91
    2速 2.29
    3速 1.58
    4速 1.19
    5速 0.97
    6速 0.83
    7速 0.67
    後退 3.55
減速比|3.09
駆動方式|4WD(235km/h以降はMR)
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン サスペンション
サスペンション 後|マルチリンク サスペンション
タイヤ 前/後|265/358ZR20 / 325/30ZR21
ホイール 前/後|9.5J×20 / 12.5J×21
ブレーキ 前|ベンチレーテッド セラミックディスク(PCCB) φ410×36 mm
ブレーキ 後|ベンチレーテッド セラミックディスク(PCCB) φ390×32 mm
最高速度|345 km/h(電気モーターのみでは150km/h)
0-100km/h加速|2.8 秒
0-200km/h加速|7.7 秒
0-300km/h加速|22.0秒
燃費(NEDC値)|3.3-3.0 ℓ/100km(30-33 km/ℓ)
CO2排出量|79-70 g/km
燃料タンク容量|70 リットル
バッテリー容量|6.8 kWh
トランク容量(VDA値)|最大110 リットル



Porsche 918 Spyder|ポルシェ 918 スパイダー
Porsche 918 Spyder Weissach Package|ポルシェ 918 ヴァイザッハ パッケージ
タイヤはミシュランが専用開発した「パイロットスポーツカップ2」がおごられる。フロントのサイズは265/35ZR20。そのなかにおさまるポルシェ セラミック コンポジット ブレーキ(PCCB) は、φ410×36mmのもの
「パナメーラ S Eハイブリッド」とおなじく、グリーンで縁取りされるハイブリッドロゴがサイドにあしらわれる
ボディ左サイドに給電口
ボディ右側は給油口
排気が上方に向かって放たれるのは、たんにデザイン的な要素に留まらず「エンジンルーム内の冷却性に優れ、背圧低減にも寄与するとともに、リアタイヤの温度上昇を抑制することでサーキット連続走行時のラップタイム低下を緩和する」などと、数かずの実利的メリットが謳われてもいる
高さと角度をコントロールする可変ディバイスが与えられたリアウイング
リアタイヤは、ミシュランが専用開発した325/30ZR21サイズの「パイロットスポーツカップ2」。スポークのあいだから覗くブレーキディスクは、φ390×32mmのポルシェ セラミック コンポジット ブレーキ(PCCB) だ
フロントのラゲッジスペースはVDA値で100リットル。ルーフパネルを収納すると、それだけでいっぱい
ポルシェが開発した、プラグインハイブリッド向けの壁掛け式チャージャー。全世界で利用可能だ。今回の試乗会においても設置されていた
918スパイダーの透視図。フロントアクスルとリアアクスルは機械的なつながりをもたない
赤く着色されたパーツは、左から順にフロントモーター、バッテリー、リアモーターをあらわす
グランドエフェクト効果をコントロールするフロントアクスル手前のアンダーフロアに設けられた2個のエアフラップ
Porsche 917 KH Coupe(1970)|Porsche 917 KH クーペ(1970)
1970年にル・マン24時間耐久レースで優勝したポルシェ917
Porsche 917 KH Coupe(1970)|Porsche 917 KH クーペ(1970)
1970年にル・マン24時間耐久レースで優勝したポルシェ917
Porsche 917 KH Coupe(1971)|Porsche 917 KH クーペ(1971)
翌1971年にも、マルティーニカラーをまとったポルシェ917がル・マン24時間耐久レースで優勝を果たす
Porsche 917 KH Coupe(1971)|Porsche 917 KH クーぺ(1971)
Porsche 917 KH Coupe(1971)|Porsche 917 KH クーペ(1971)