木曜日, 9月 25, 2014

2013 役員報酬ランキング 東京商工リサーチ調べ

戦う取締役会

ゴーン社長が語る報酬9億9500万円の理由

上場企業役員報酬ランキングを全公開



 「あなたの会社の社長の年収はいくら?」。そう問われて即答できる人は少ないだろう。
 一般人からはうかがい知れない部分が少なからず残る役員報酬。サラリーマン社長が多く人材流動性が低い日本では、経営者の「相場」が形成されてこなかった経緯もある。
 だが、今や経営にも「プロ」が求められる時代となった。プロスポーツ選手の価値を示す年俸が公開されるのが当たり前のように、役員報酬の透明性を高めることで結果(業績)につなげようとする動きが顕著になってきた。
 本稿の末尾では東京商工リサーチがまとめた報酬ランキングを一挙掲載している。あなたの会社、取引先の役員報酬は載っているだろうか。
 2013年度、日本で最も稼ぐ経営者となったのは、9億9500万円を稼いだ日産自動車のカルロス・ゴーン社長だった(退職慰労金を除く、東京商工リサーチ調べ)。
 その金額を初めて明らかにした日産の株主総会で、ゴーン氏は自身の高額報酬の理由について説明した。
 「日産のCEO(最高経営責任者)は、日本企業ではなくグローバル企業のCEOとして見ていただきたい。私どもは引き続き、優秀な人材を引きつけたいと思っている。人材を引きつける上で、日本にベースを置くということがハンディキャップになってはいけない」
 「もう一つ、私は、日本の役員が外国人に比べて報酬が少ないということはアンフェアだと思う。一生懸命頑張っている。同じぐらいの価値を生み出している。だから、同じ報酬でなければならない」
 「私どもは日本ベースの企業であり、そして日本社会はそういったことに対して非常に控え目だということはわかっているが、これは最終的に会社のデメリットになる。(中略)最高の人材を日本とそして国際市場から採用して、会社が引き続き豊かになり、成長し、そして皆さんに配当金を支払い、誇りに思えるブランドにしていきたいと思う」
 同氏の言葉から伝わってくるのは、「役員報酬は優秀な人材を集めるための重要なツールである」という認識だ。ゴーン氏の発言後、日産の一部株主からは拍手が起き、同氏は再び代表取締役として選任された。
株主総会後の懇親会で株主に囲まれる日産自動車のカルロス・ゴーン社長
 日産の有価証券報告書によれば、社員の平均年齢は42.8歳で、平均年間給与は766万5074円。すなわちゴーン氏は1年間で、同社の平均的社員(がいるとして)129.8年分の年収を得ていることになる。
 こうした現実についての倫理的な意味での議論はあるだろうが、少なくとも日産の株主はそれを許容した。総会後の懇親会で株主十数人に話を聞いたところ、「日本人の感覚から言えば高いが、優秀な人材を確保するためには仕方ない」「業績を向上させれば10億円を超えても全然構わない」といった声が多かった。

役員報酬は「アメ」、社外取締役は「ムチ」

 日本でもプロ経営者は徐々に増え、経営者人材市場の流動性は高まりつつある。だが、日本企業の多くでは今なおサラリーマン経営者が大半を占めるのが現実だ。
 経営者も人の子。出世の終着駅として社長になった人材が「大過なく任期を過ごしたい」と心の片隅で思ってリスクをとる決断を躊躇してしまうのは、無理からぬことといえる。
 日本経済を長らく覆ったデフレから脱却しつつあり、リスクをとる経営が求められている今、コーポレートガバナンス(企業統治)には経営者の目線を引き上げるための「アメとムチ」としての機能を発揮することが求められている。ムチが社外取締役や監査役などの経営監視とすれば、アメは役員報酬だ。
 経営のプロとして株主総会で選任された以上、高額の報酬が与えられることは不自然とはいえない。一方で、経営者はプロなのだから、結果が出せなければ報酬の引き下げや、最悪の場合はクビも覚悟しなければならない。これまでの日本の慣行と比べると厳しいように見えるが、それが経営者の本来の姿ではある。

TOPIX上回る株価を経営者に要求

 どのように役員報酬を業績向上につなげるか。いくつか参考になる事例が出てきている。
 三井物産は今年、新たなストックオプション(新株予約権)制度を導入した。ストックオプション自体は経営者に株価への意識を高めさせるための一般的な制度だが、ユニークなのはその行使条件だ。新株予約権を割り当ててから3年間で、同社の株価成長率がTOPIX(東証株価指数)と同じか上回った場合のみ、予約権のすべてを行使できるというものだ。
 TOPIXのパフォーマンスを下回った場合は、権利の一部しか行使できない。その割合は「三井物産の株価成長率÷TOPIX成長率」。つまり、ある期間で三井物産の株価が2倍になったとしても、その間にTOPIXが3倍になっていたら、3分の2しか権利を行使できない。逆に、三井物産の株価が下がっても、その間にTOPIXがそれ以上に落ち込んでいるのであれば、全部を行使できる。
 三井物産の北森信明・執行役員人事総務部長は「新制度はこの2年間検討してきた。社外取締役で報酬委員長の武藤敏郎氏(元財務事務次官で大和総研理事長)を中心に、長期的な業績向上に寄与する報酬制度を作ってきた」と述べる。

譲渡制限付き株式の壁を突破

 ただし、日本の法体系が、先進的な役員報酬の実現の障壁となる部分も残っている。例えば欧米企業で一般的な「譲渡制限付き株式」だ。これは、発行してから一定期間、株式の譲渡・売却を禁止するもの。役員報酬に組み込めば、経営者に中長期的に株価を上げるような舵取りをさせる効果が期待できる。
 譲渡制限付き株式を導入したいと考えて壁に直面したのが、プリント配線板向け絶縁膜で世界最大手の太陽ホールディングスだ。「株式は究極の業績連動報酬。ストックオプションでも同様のことはできるが、手元に株式があることでより株価を意識した経営ができる」(尾身修一・管理本部副本部長)と考えた。役員の持ち株数を示せば、同じ方向を向いて経営していることを投資家にも納得してもらいやすい。
 ところが同社が弁護士に相談したところ、「株式譲渡の自由は会社法の原則で、上場企業でこれを縛ることは認められないだろう。ただし、種類株式を発行すれば可能」との答えだった。しかしながら、種類株式を毎年発行するには、毎年株主総会での特別決議が必要になり、その手間は煩雑になる。それでも太陽ホールディングスは「株主も経営と利害が一致するメリットを理解してくれるはず」と考え、導入に踏み切った。
 株式で報酬を渡す際には、もう1つハードルがある。業績連動賞与と異なり、損金算入できないことだ。そこで、役員に一旦賞与を支給した上で、即座に種類株式を購入させることにして、この問題をクリアした。税法や会社法が十分考慮していない中で、太陽ホールディングスは最大限の工夫をしたと言えそうだ。
 報酬コンサルティング会社、タワーズワトソンの櫛笥隆亮氏は「譲渡制限付き株式が日本でできないことが、海外人材を呼ぶ際の障害になることもある」と指摘する。日本で役員報酬の考え方を世界基準に近づけるには、法律や制度を変えていく必要もありそうだ。
 次ページから、役員報酬ランキングを掲載する。役員報酬には、会社の経営についての考え方そのものが表れている。役員報酬が納得できるものかどうかを、じっくり見定めて欲しい。
 役員報酬は主に、固定の基本報酬、業績連動性が強い賞与、ストックオプション、退職慰労金からなる。そのうち、業績不振企業でも在任期間が長期にわたれば高額になりやすい退職慰労金には批判も多く、大半の企業で廃止されている。新たな退職慰労金制度打ち切りに伴う一括支給や退職に伴う高額支給があった場合、企業業績との連動性が見えにくくなるため今回は除外してランキングを作成している(参考値として掲載)。また本来、役員報酬は開示が原則だが「報酬等の額が1億円以上である者に限ることができる」との規定があり、多くの企業が公開範囲を報酬1億円以上のみとしている。そのため、退職慰労金を含む報酬総額が1億円以上の役員をランキング対象とした。


2013年度 役員報酬額ランキング 1〜152位(単位:百万円)
順位商号役職氏名退職慰労金を除く役員報酬退職慰労金
1日産自動車(株)取締役カルロス ゴーン9950
2武田薬品工業(株)取締役フランク・モリッヒ99026
3(株)ユーシン代表取締役会長兼社長田邊耕二8340
4(株)ユニバーサルエンターテインメント取締役岡田和生8100
5武田薬品工業(株)取締役山田忠孝80830
6(株)ユニバーサルエンターテインメント代表取締役富士本淳6760
7セガサミーホールディングス(株)取締役里見治6350
8日本調剤(株)取締役三津原博61958
9信越化学工業(株)取締役金川千尋5060
10エイベックス・グループ・ホールディングス(株)代表取締役社長CEO松浦勝人4610
11ファナック(株)取締役稲葉善治4320
12(株)三共取締役毒島秀行42030
13(株)ファーストリテイリング代表取締役柳井正4000
14富士フイルムホールディングス(株)取締役古森重隆3900
15(株)アイセイ薬局代表取締役岡村幸彦3840
16(株)電通取締役、President&CEO、Executive Chairmanティモシー・アンドレー36666
17ソニー(株)取締役、執行役、社長兼CEO平井一夫3590
18中外製薬(株)代表取締役永山治3570
19日本マクドナルドホールディングス(株)取締役原田永幸34924
20(株)ミスミグループ本社代表取締役三枝匡348552
21シャクリー・グローバル・グループ(株)取締役、代表執行役会長、社長兼CEOロジャー・バーネット3451
22(株)LIXILグループ執行役藤森義明3350
23(株)資生堂代表取締役カーステン・フィッシャー3300
24(株)堀場製作所取締役堀場厚3232
24ソフトバンク(株)取締役ロナルド・フィッシャー3230
26エイベックス・グループ・ホールディングス(株)代表取締役副社長CSO千葉龍平3210
27武田薬品工業(株)取締役長谷川閑史3050
28大塚ホールディングス(株)取締役、顧問・相談役大塚明彦304195
29日清食品ホールディングス(株)取締役安藤宏基2990
30大日本印刷(株)取締役北島義俊2970
31コナミ(株)取締役上月景正2960
31野村ホールディングス(株)代表執行役(グループCEO)永井浩二2960
33(株)大和証券グループ本社執行役日比野隆司2910
34ファナック(株)取締役リチャードイーシュナイダー2820
35野村ホールディングス(株)代表執行役(グループCOO)吉川淳2700
36キヤノン(株)取締役御手洗冨士夫264841
37伊藤忠商事(株)取締役岡藤正広2590
38マネックスグループ(株)取締役サロモン・スレデニ2510
39タマホーム(株)取締役玉木康裕2480
40(株)ニトリホールディングス代表取締役似鳥昭雄2460
40小林製薬(株)取締役会長小林一雅2460
42(株)コロワイド取締役蔵人金男2420
43(株)大和証券グループ本社執行役鈴木茂晴2410
44ファナック(株)取締役山口賢治2380
45伊藤忠商事(株)取締役小林栄三2360
46(株)LIXILグループ取締役、Director潮田洋一郎2350
47(株)ヤマダ電機取締役山田昇23310
47(株)藤商事取締役松元邦夫2330
47富士フイルムホールディングス(株)取締役中嶋成博2330
50オーエスジー(株)取締役大沢輝秀2320
51三菱商事(株)取締役小林健2310
52フィールズ(株)取締役山本英俊2300
52トヨタ自動車(株)取締役豊田章男2300
54エイベックス・グループ・ホールディングス(株)代表取締役CBO林真司2220
54エイベックス・グループ・ホールディングス(株)代表取締役CFO竹内成和2220
56スターバックスコーヒージャパン(株)取締役関根純2200
56野村ホールディングス(株)執行役森田敏夫2200
58トシン・グループ(株)代表取締役加藤光男21829
58アステラス製薬(株)取締役畑中好彦2180
58ダイキン工業(株)取締役井上礼之2180
61オリックス(株)執行役宮内義彦2130
62三菱商事(株)取締役小島順彦2070
63(株)飯田産業代表取締役森和彦2030
64(株)岡三証券グループ取締役加藤精一20012
64大塚ホールディングス(株)取締役、顧問・相談役樋口達夫2004
66東建コーポレーション(株)取締役左右田稔19813
67アライドテレシスホールディングス(株)取締役大嶋章禎1970
67(株)大和証券グループ本社執行役岩本信之1970
69(株)ワコールホールディングス取締役塚本能交1950
69エーザイ(株)専務執行役ロネル・コーツ1950
69(株)ローソン代表取締役新浪剛史1950
72三谷商事(株)取締役三谷聡19415
72ソニー(株)執行役EVP、ジェネラル・カウンセルニコール・セリグマン1940
74(株)セブン&アイ・ホールディングス取締役鈴木敏文1930
74三井物産(株)取締役飯島彰己1930
74大和ハウス工業(株)取締役樋口武男1930
77野村ホールディングス(株)取締役古賀信行1920
78(株)トーエル取締役稲永修19055
79(株)ニフコ取締役小笠原敏晶1890
79凸版印刷(株)取締役足立直樹1890
81京セラ(株)取締役会長兼最高経営責任者ジョン・ギルバートソン1880
81(株)小松製作所取締役大橋徹二1880
83アサガミ(株)取締役木村知躬18623
83HOYA(株)取締役、代表執行役鈴木洋1860
85スミダコーポレーション(株)代表執行役CEO八幡滋行1850
85(株)エディオン取締役久保允誉1850
87タカタ(株)取締役高田重久18422
87アステラス製薬(株)取締役野木森雅郁1840
89日本通信(株)代表取締役社長三田聖二1810
90第一交通産業(株)代表取締役黒土始18052
90(株)東理ホールディングス代表取締役社長(取締役)福村康廣1800
90(株)ノエビアホールディングス取締役大倉昊1800
93日本精工(株)CEOバーナード・リンゼイ17917
94三井不動産(株)代表取締役社長菰田正信1770
94三井不動産(株)代表取締役会長岩沙弘道1770
96三井物産(株)取締役槍田松瑩1760
97(株)フェローテック代表取締役、副董事長、董事長賀賢漢1750
98(株)ミスミグループ本社代表取締役大野龍隆1748
98(株)堀場製作所取締役石田耕三1740
100(株)小松製作所取締役野路國夫1730
100(株)日立製作所執行役中西宏明1730
102三菱電機(株)執行役山西健一郎17228
102(株)ディスコ取締役関家一馬1720
104ダイキン工業(株)取締役十河政則1690
105(株)フェローテック代表取締役、董事長山村章1680
105ファナック(株)取締役権田与志広1680
105(株)ノエビアホールディングス取締役大倉俊1680
108(株)フジ・メディア・ホールディングス取締役日枝久1670
109第一三共(株)取締役中山讓治1660
109大和ハウス工業(株)取締役大野直竹1660
111(株)第一興商取締役林三郎16531
111日産自動車(株)取締役コリン ドッジ1650
111(株)マツモトキヨシホールディングス取締役松本南海雄1650
111トヨタ自動車(株)取締役内山田竹志1650
111GCAサヴィアン(株)取締役ジェフェリー・ディ・バルドウィン1650
116(株)ミスミグループ本社代表取締役高家正行16412
117(株)オンワードホールディングス取締役廣内武1630
118三菱重工業(株)取締役大宮英明1620
118シスメックス(株)取締役家次恒1620
118三菱重工業(株)取締役宮永俊一1620
121ロート製薬(株)取締役山田邦雄1610
121日本板硝子(株)代表執行役副社長兼CFOマーク・ライオンズ1610
123第一交通産業(株)代表取締役田中亮一郎16046
123(株)ベストブライダル取締役塚田正之16026
123住友商事(株)取締役中村邦晴1600
126第一三共(株)取締役庄田隆1590
126(株)シーイーシー取締役岩崎宏達1590
126オムロン(株)取締役山田義仁1590
129(株)ヤマダ電機取締役一宮忠男1586
129(株)バンダイナムコホールディングス取締役、代表取締役社長大下聡1580
129(株)ディスコ取締役溝呂木斉1580
132(株)バロー取締役田代正美15712
132ファナック(株)取締役内田裕之1570
134(株)日本デジタル研究所代表取締役前澤和夫1560
135大塚ホールディングス(株)取締役大塚一郎15525
135スズキ(株)取締役鈴木修1550
135信越化学工業(株)取締役森俊三1550
135凸版印刷(株)取締役金子眞吾1550
135丸紅(株)取締役國分文也1550
140(株)コメリ取締役捧賢一1540
140シダックス(株)取締役フォルトゥナート・ニック・バレンティ1540
142(株)伊藤園代表取締役本庄八郎1530
142小林製薬(株)取締役副会長小林豊1530
142大東建託(株)取締役熊切直美1530
142大同メタル工業(株)取締役伴治誠吾1530
146スタンレー電気(株)代表取締役北野隆典1520
146青山商事(株)代表取締役会長宮前省三1520
146(株)小糸製作所取締役大嶽隆司1520
149上村工業(株)代表取締役上村寛也1515
149東レ(株)取締役榊原定征1510
149(株)クボタ取締役益本康男1510
152ユニ・チャーム(株)取締役ファウンダー高原慶一朗1500
152(株)サマンサタバサジャパンリミテッド代表取締役寺田和正1500
152信越化学工業(株)取締役斉藤恭彦1500
152本田技研工業(株)取締役伊東孝紳1500
152富士フイルムホールディングス(株)取締役山本忠人1500
152アース製薬(株)代表取締役社長大塚達也1500
152(株)ヤクルト本社取締役堀澄也1500
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20140825/270341/